女性の薄毛(FAGA)は、男性とは異なり頭頂部を中心に全体的に薄くなる特徴を持ちます。この進行レベルを世界的な基準で定義したものが「ルードウィッグ分類」です。
分け目の広がり具合や地肌の透け感によってⅠ型からⅢ型までの3段階に分けられ、早期発見の重要な指標となります。
本記事では、各ステージの特徴を詳細に解説し、ご自身の状態を正しく把握するための判断基準を提供します。適切なタイミングで専門的なケアを開始することは、豊かな髪を守るために極めて重要です。
FAGAとルードウィッグ分類の基礎知識と重要性
女性の薄毛の悩みにおいて、自身の状態がどの程度進行しているのかを客観的に把握することは、適切な対策を講じる第一歩となります。
FAGA(女性男性型脱毛症)は、男性のように生え際が後退するのではなく、頭頂部の分け目が広がり、全体のボリュームが減少するという独特の進行パターンをたどります。
この進行パターンを医学的に分類し、世界共通の指標として確立したのが「ルードウィッグ分類(Ludwig Scale)」です。1977年にルードウィッグ医師によって提唱されたこの分類法は、現在でも皮膚科や専門クリニックにおける診断の根幹をなしています。
女性型脱毛症FAGAにおける進行パターンの特徴
FAGAの進行は非常に緩やかであり、初期段階では本人さえも気づかないことが多々あります。男性のAGAが特定の部位から明確に脱毛するのに対し、女性の場合は「びまん性」と呼ばれる全体的な密度の低下が主な特徴です。
毛髪一本一本が細く短くなる「軟毛化」という現象が頭頂部を中心に広範囲で発生します。この軟毛化により、髪のハリやコシが失われ、セットが決まらなくなったり、分け目の地肌が以前よりも目立つようになったりします。
しかし、前頭部の生え際(フロントライン)は保たれる傾向が強いため、正面から鏡を見ただけでは変化に気づきにくいという難点があります。だからこそ、頭頂部や分け目の変化に特化した診断基準を知っておくことが大切です。
ルードウィッグ分類が薄毛治療において果たす役割
医療現場において、ルードウィッグ分類は単なる進行度の確認だけでなく、治療方針の決定や治療効果の判定にも利用します。
例えば、進行度が初期であれば外用薬を中心としたアプローチを検討し、進行が進んでいる場合は内服薬やメソセラピーなど、より積極的な治療を組み合わせる判断材料とします。
また、患者様自身にとっても、この分類を知ることで「なんとなく薄い気がする」という曖昧な不安を、「現在はステージⅠの状態である」という明確な認識に変えることができます。
現状を正しく認識することは、漠然とした不安を解消し、前向きに治療に取り組むための動機付けになります。
なぜ生え際ではなく分け目の広がりが基準になるのか
ルードウィッグ分類が「分け目」を重視する理由は、女性のホルモンバランスと毛包の感受性に由来します。女性ホルモンの一種であるエストロゲンは髪の成長を助けますが、加齢やストレスなどで分泌量が減少すると、男性ホルモンの影響を受けやすくなります。
しかし、女性の前頭部の生え際付近には、アロマターゼという男性ホルモンを無害化する酵素が多く存在するため、生え際は維持されやすいのです。
一方で、頭頂部はこの酵素の働きが比較的弱いため、薄毛の影響をダイレクトに受け、結果として「分け目が広がる」という現象が顕著に現れます。
この生理学的なメカニズムに基づき、分け目の状態こそが最も信頼できる指標となります。
男女の薄毛の現れ方の違い
| 比較項目 | 男性型脱毛症(AGA) | 女性男性型脱毛症(FAGA) |
|---|---|---|
| 主な進行部位 | 生え際(M字)、頭頂部(O字) | 頭頂部から全体(分け目) |
| 生え際の状態 | 後退することが多い | 維持されることが多い |
| 脱毛の仕方 | 局所的に完全に毛がなくなる | 全体的に毛が細くなり密度が減る |
| 進行スピード | 比較的早い場合がある | 数年単位で緩やかに進行する |
ルードウィッグ分類Ⅰ型の特徴と初期のサイン
ルードウィッグ分類Ⅰ型は、FAGAの初期段階にあたります。多くの女性が「最近、髪の質が変わったかも?」「分け目がいつもより目立つ気がする」と感じ始めるのがこの時期です。
しかし、劇的な変化ではないため、季節の変わり目による抜け毛や、一時的な体調不良によるものだと自己判断して見過ごしてしまうケースが少なくありません。
この段階で異変に気づき、適切なケアを開始することが、将来的な髪の量を維持するために最も効果的です。
頭頂部の軽度な薄毛状態と見え方の変化
ステージⅠでは、頭頂部の毛髪密度がわずかに低下します。具体的には、以前は一直線の細い線だった分け目が、少しずつ不規則な形になり、幅が広がったように見え始めます。
頭頂部を触った時の感触も、以前のような弾力のある厚みが減少し、少しペタンとした感触に変わってくることに気づく方もいます。
この段階では、他人の目から見て明らかに薄毛であると認識されることは稀です。しかし、明るい照明の下や、髪が濡れた状態では地肌の白さが目立ちやすくなります。
美容院で鏡越しに自分の頭頂部を見た時や、エレベーターの防犯カメラの映像などで、ふとした瞬間に違和感を覚えることが多いのもこのステージの特徴です。
分け目の地肌が透け始める具体的な兆候
健康な状態であれば、分け目の地肌は青白く、毛穴から複数の太い髪が生えているため密度があります。
しかし、ステージⅠに入ると、一つの毛穴から生える髪の本数が減ったり、太い髪に混じって細い産毛のような髪が増えたりします。これにより、地肌の色が肌色に近づき、視覚的なコントラストが弱まります。
特に、髪を洗った直後や汗をかいた時に髪の束感が強まり、その隙間から地肌が覗く頻度が高くなります。
「以前は気にならなかったのに、最近頭皮が透けて見える気がする」という感覚は気のせいではなく、FAGAの初期サインである可能性が高いと考えます。
前髪のボリューム変化とスタイリングの違和感
頭頂部の変化に伴い、前髪のボリュームダウンも同時に進行することがあります。前髪が以前のようにふんわりと立ち上がらなくなったり、額に張り付くようになったりするのは、髪のコシが失われている証拠です。
毎朝のスタイリングで分け目を隠すために時間をかけるようになったり、分け目を変えてもすぐに元の位置に戻って地肌が見えてしまったりする現象も起こります。
スプレーやワックスでボリュームを出そうとしても時間が経つとすぐにペシャンコになってしまう場合、髪自体の力が弱まっていると考えられます。
ステージⅠを見逃さないためのチェックポイント
- 直射日光やダウンライトの下で分け目がくっきり見えるようになった
- 以前と同じヘアゴムを使った時、結び目の回数が増えた(束が細くなった)
- 抜け毛の中に、短くて細い毛が混ざるようになった
- シャンプー後の排水溝に溜まる毛の量が以前より増えた気がする
- 頭皮が硬くなり、以前のような柔軟性が感じられない
ルードウィッグ分類Ⅱ型の進行詳細と外見的変化
ルードウィッグ分類Ⅱ型に進むと薄毛の症状は本人にとって明確な悩みとなり、周囲の視線も気になり始めます。薄毛の範囲が頭頂部を中心に拡大し、地肌の透け感が強まるため、ヘアスタイルでのカモフラージュに工夫が必要になる段階です。
このステージでは、毛包のミニチュア化(縮小)がさらに進行し、太く長く成長するはずの髪が、成長しきる前に抜け落ちるヘアサイクルの乱れが顕著になります。
頭頂部全体の密度低下と範囲の拡大
ステージⅡでは、分け目の線がはっきりと太くなり、頭頂部全体のボリュームが著しく低下します。Ⅰ型では分け目周辺に限られていた密度の低下が、つむじ周辺から前頭部にかけての広い範囲に及びます。
髪をかき上げた時に指の間をすり抜ける髪の感触が頼りなく感じたり、ポニーテールにした時の毛束の直径が明らかに細くなったりします。これは休止期にある毛包が増加し、現在生えている髪(成長期毛)の割合が減少していることを示しています。
頭頂部全体のシルエットが四角く平坦になり、若々しい丸みが失われることも特徴の一つです。
地肌の透け感が明瞭になり隠しにくくなる段階
この段階に至ると、通常の室内照明の下でも地肌の露出が目立つようになります。分け目の幅は1センチを超え、地肌が露わになっている面積が増加します。
特に、髪の色と地肌の色のコントラストが強いため、黒髪の方はより薄毛が強調されて見える傾向があります。
風が吹いたり、お辞儀をしたりする動作に対して過敏になり、「人に見られているのではないか」という心理的なストレスを感じる方も増えます。
帽子やヘアバンドが手放せなくなるのも、このステージⅡの方に多く見られる行動パターンです。
Ⅰ型とⅡ型を分ける決定的な違い
Ⅰ型とⅡ型の境界線は、スタイリングによるカバーの容易さにあります。Ⅰ型であれば、ブローの仕方や分け目を少しずらす工夫で薄毛を目立たなくすることが可能です。
しかし、Ⅱ型になると、健康な髪の密度自体が不足しているため、隣接する髪を持ってきても地肌を十分に覆い隠すことが難しくなります。
また、頭皮の透け方が「線」から「面」へと変化する点も大きな違いです。Ⅰ型が「線状の薄毛」であるのに対し、Ⅱ型は「びまん性(拡散性)の薄毛」として、頭頂部全体がぼんやりと薄くなる視覚的特徴を持ちます。
進行度別に見る髪と頭皮の状態変化
| 確認ポイント | ステージⅠ(初期) | ステージⅡ(中期) |
|---|---|---|
| 分け目の幅 | わずかに広がった程度 | 明確に広がり、地肌が目立つ |
| 地肌の透け感 | 強い光の下で気になる | 通常の室内灯でもはっきり分かる |
| 髪のコシ・ハリ | 少し柔らかくなった感覚 | 全体的にペタッとし、立ち上がらない |
| カバーの難易度 | セットで隠せる範囲 | 部分ウィッグ等の検討を始めるレベル |
ルードウィッグ分類Ⅲ型の深刻な状態と対処
ルードウィッグ分類Ⅲ型は、FAGAの中で最も進行した状態を指します。頭頂部の広範囲において地肌が露出し、残っている髪も非常に細く短い状態となります。
この段階まで進行すると、自然回復や市販の育毛剤だけでの改善は極めて困難となり、専門的な医療介入やウィッグの活用が現実的な選択肢となります。
しかし、Ⅲ型であっても毛根が完全に死滅しているわけではないため、諦めずに適切なアプローチを検討することが大切です。
頭頂部から前頭部の広範囲な脱毛状態
ステージⅢでは、頭頂部の皮膚が完全に見える状態となり、いわゆる「頭頂部ハゲ」と呼ばれる状態に近づきます。ヘアサイクルが極端に短くなり、多くの毛包が産毛しか生み出せないほどに縮小しています。
頭頂部だけでなく、側頭部や後頭部の髪質にも変化が現れることがあります。全体的に髪の元気がなくなり、ヘアスタイルを維持することが物理的に難しくなります。こ
の状態は、長年のFAGAの進行を放置した場合や、加齢による変化が強く重なった場合に見られます。
それでもフロントラインは維持される特徴
非常に興味深いことに、ステージⅢまで進行しても、前頭部の生え際(フロントライン)の髪は帯状にわずかに残ることが一般的です。これは前述したアロマターゼの働きによるもので、女性特有の薄毛の現れ方です。
完全に生え際から後退してツルツルになる男性のパターンとは異なり、顔の輪郭を形成する髪は残るため、帽子やウィッグを被れば、外見上の印象を大きく変えずに生活を送ることは可能です。
この特徴は、ウィッグを選ぶ際や装着する際に自然な見た目を作るための利点となります。
日常生活への影響とウィッグの必要性
Ⅲ型まで進行すると、薄毛が日常生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。外出がおっくうになったり、人と会うことを避けたりするなど精神的な負担が大きくなりがちです。
この段階では、医療的な発毛治療(植毛など)を検討すると同時に、即効性のある解決策としてウィッグの導入を前向きに考えることが推奨されます。
最近のウィッグは非常に精巧で通気性も良く、自分の髪と馴染ませて使用する部分ウィッグも充実しています。治療による改善を待ちながら、精神的な安定を得るためにウィッグを併用することは、賢明な選択と言えます。
ステージⅢにおける生活シーン別の課題
| シーン | 直面する課題 | 推奨される対策 |
|---|---|---|
| 外出時 | 人の視線や日光が気になり、不安を感じる | 通気性の良い帽子やUVカット日傘の常備 |
| 美容院 | 希望の髪型ができず、オーダーに困る | 個室のあるサロンや薄毛専門美容室の利用 |
| 冠婚葬祭 | フォーマルな場でのセットが決まらない | 高品質な部分ウィッグやヘアピースの活用 |
ルードウィッグ分類に当てはまらないその他のFAGAパターン
女性の薄毛の多くはルードウィッグ分類で説明できますが、すべての症状がこの3パターンに収まるわけではありません。人によっては異なる進行パターンを示す場合があり、それらを理解しておくことで、誤った自己診断を防ぐことができます。
特に「クリスマスツリー型」や、男性のパターンに近い進行をするケースについて解説します。
クリスマスツリー型(オルセン分類)の特徴
クリスマスツリー型は、前頭部の中心から頭頂部にかけて、まるでクリスマスツリーの枝振りのように三角形に薄毛が広がるパターンです。
ルードウィッグ分類が生え際を残すのに対し、このタイプは生え際の中央部分から薄くなるのが特徴です。分け目を作った時に前髪付近が最も広く開き、頭頂部に向かって狭くなっていく形状が見られます。
このパターンもFAGAの一種であり、治療法は基本的にはルードウィッグ型と同様ですが、生え際へのアプローチが必要になる点で、薬の塗布範囲などに注意が必要です。
ハミルトン・ノーウッド分類との関連性
稀なケースとして、女性であっても男性のAGAの分類である「ハミルトン・ノーウッド分類」に近い進行を示すことがあります。これは、生え際のM字部分が後退していくパターンです。
体内の男性ホルモン値が極端に高い場合や、更年期以降に女性ホルモンが急激に減少した際に、このような男性的な脱毛パターンが現れることがあります。
この場合、通常のFAGA治療に加え、ホルモンバランスの詳細な検査が必要になることがあります。
びまん性脱毛症とFAGAの混同に注意
「びまん性脱毛症」という言葉は、FAGAと同義で使われることもありますが、厳密には栄養不足や甲状腺疾患、貧血などが原因で全体的に髪が薄くなる症状も含みます。
ルードウィッグ分類が適用されるのは、主に加齢とホルモンバランスによるFAGAですが、急激に全体が抜ける場合や、側頭部・後頭部も含めて均一に薄くなる場合は、FAGA以外の内科的疾患が隠れている可能性も否定できません。
パターンが典型的でない場合は、自己判断せずに皮膚科医の診断を仰ぐことが大切です。
クリスマスツリー型(オルセン分類)を見分けるポイント
- 前髪の分け目部分が特に広く透けている
- 薄毛の形が、前方から頭頂部に向かって三角形になっている
- 生え際のラインが崩れ、ギザギザになっている
- ルードウィッグ分類の図と見比べてもしっくりこない
- 家族に生え際から薄くなっている女性がいる(遺伝的傾向)
進行度に応じた適切な医療的アプローチ
自身のルードウィッグ分類のステージを把握したら、次はそれぞれの段階に適した対策を実行に移します。薄毛治療は「早ければ早いほど良い」と言われますが、それは残っている毛包が多いほど、治療の効果が出やすいためです。
ステージごとに推奨されるアプローチは異なりますが、共通しているのは「科学的根拠に基づいた治療」を選択することの重要性です。
早期発見・初期段階(ステージⅠ)での対策
ステージⅠの段階では、毛包の機能低下はまだ軽度です。この時期であれば、ミノキシジルなどの外用薬を使用することで、血流を改善し、毛包に直接発毛シグナルを送ることで改善が見込めます。
また、生活習慣の見直しも大きな効果を発揮します。睡眠不足の解消、タンパク質や亜鉛・ビタミン類を意識した食事、ストレス管理など、髪が育つ土壌となる身体のコンディションを整えることが大切です。
サプリメントでの栄養補給も、この段階では有効な補助手段となります。
進行期(ステージⅡ)における複合治療
ステージⅡに進むと、外用薬だけでは十分な効果が得られない場合があります。医師の指導のもと、内服薬(スピロノラクトンやミノキシジル内服薬など)の併用を検討します。
内側からホルモンバランスに働きかけたり、血流を強力に促進したりすることで、進行を食い止め、発毛を促します。
さらに、頭皮に直接成長因子などを注入するメソセラピーなどの治療法も選択肢に入ります。これにより、弱った毛包を活性化させ、ヘアサイクルの正常化を加速させます。
進行が進んだ段階(ステージⅢ)での選択肢
ステージⅢでは、既存の毛髪を太くするだけでは見た目の改善に限界がある場合があります。この場合、自分の後頭部の健康な毛包を薄い部分に移植する「自毛植毛」が根本的な解決策の一つとなります。
女性の植毛は、分け目の密度を上げるために行われることが多く、定着すればメンテナンス不要で生え続けるため、QOLを大きく向上させます。
医療的なアプローチと並行して、ウィッグやヘアファンデーションなどのコスメティックな手段を上手に活用し、精神的な負担を減らすことも治療の一環として重要です。
ステージ別・推奨される対策マトリクス
| ステージ | 主な治療目標 | 検討されるアプローチ例 |
|---|---|---|
| ステージⅠ | 現状維持・予防・軽度の改善 | 外用薬、育毛サプリメント、生活習慣改善、頭皮ケア |
| ステージⅡ | 進行抑制・発毛促進・密度回復 | 内服薬の併用、メソセラピー、低出力レーザー治療 |
| ステージⅢ | 見た目の改善・外科的修復 | 自毛植毛、ウィッグの活用、高濃度内服薬治療 |
自分で行うセルフチェックの正しい方法と記録
クリニックに行く前に、まずは自分で状態を確認したいと考えるのは自然なことです。しかし、漫然と鏡を見るだけでは、正確な変化を捉えることはできません。
ルードウィッグ分類に基づいた正しいセルフチェックを行い、客観的な記録を残すことが、その後の医師への相談の際にも役立ちます。ここでは、正確な状態把握のための具体的な手順を紹介します。
鏡を使った頭頂部の確認手順
通常の洗面所の鏡だけでは頭頂部を真上から見ることはできません。必ず「合わせ鏡」の手法を使います。大きめの手鏡を用意し、洗面所の鏡に背を向けて立ちます。手鏡で後頭部から頭頂部を映し、洗面所の鏡越しに確認します。
この時、照明の位置に注意します。真上からの強いダウンライトは影を作りやすく、必要以上に薄く見えてしまうことがあります。
自然光が入る明るい場所か、正面から光が当たる環境で確認するのが理想的です。髪を真ん中で分け、くしを使って分け目を一直線にし、その幅を観察します。
写真撮影による定期的な経過観察
記憶は曖昧になりがちですが、写真は嘘をつきません。月に1回程度、同じ場所、同じ照明、同じアングルで頭頂部の写真を撮影し、保存します。
スマートフォンのカメラを使用する場合、インカメラではなく、画質の良いアウトカメラを使用し、タイマー機能や家族に撮影してもらうことで鮮明な画像を残せます。
フォルダを分けて時系列で並べることで、「半年前と比べて分け目が広がったか」「治療を始めてから産毛が増えたか」といった変化を冷静に分析できます。
この記録は、クリニックを受診した際に医師に見せることで、診断の精度を高める貴重な資料となります。
抜け毛の質(毛根・太さ)のチェック
量だけでなく、抜けた髪の「質」を見ることでも進行度が分かります。枕元やブラシについた抜け毛を白い紙の上に並べてみてください。
太くて長い髪だけでなく、細くて短い、先細りした髪が多く混ざっている場合、ヘアサイクルが短縮し、十分に成長できずに抜けている証拠です。
また、毛根の形もチェックします。健康な毛根はマッチ棒のように膨らんでいますが、FAGAが進行している毛根は膨らみが少なく、細く尖っていることがあります。抜け毛の状態は、頭皮環境や毛包の活力を映す鏡です。
セルフチェック記録用シート(例)
| 確認項目 | チェック内容 | メモ欄 |
|---|---|---|
| 分け目の幅 | □ 変わらない □ 少し広がった □ 指一本分以上ある | |
| 地肌の色 | □ 青白い □ 赤みがある □ 肌色に近い | |
| 抜け毛の質 | □ 太い毛が多い □ 細い毛が混じる □ 短い毛が多い | |
| スタイリング | □ 以前と同じ □ ボリュームが出ない □ 分け目を変えられない |
よくある質問
- ルードウィッグ分類は自分で正確に判断できますか?
-
ご自身でもある程度の目安をつけることは可能ですが、正確な診断には専門知識が必要です。照明の加減や髪質によって見え方が変わるため、自己判断だけで完結させず、マイクロスコープなどを用いた専門医による診断を受けることを強く推奨します。自己診断はあくまで「気づき」のきっかけとして活用してください。
- Ⅱ型からⅠ型に戻ることは可能ですか?
-
適切な治療を行うことで、状態を改善させることは十分に可能です。特にFAGAは毛包が完全に消失しているわけではないため、治療への反応が良いケースも多くあります。ただし、進行度が高いほど回復には時間を要するため、Ⅰ型に戻す・あるいはⅠ型に近い状態まで改善するには、根気強い継続的なケアが必要です。
- 20代でもルードウィッグ分類に当てはまることはありますか?
-
はい、あります。FAGAは更年期以降に多いとされていますが、近年では生活習慣の乱れや過度なダイエット、ストレスなどが原因で、20代や30代で発症する「若年性FAGA」も増えています。年齢に関わらず、分け目の広がりが気になった時点でのチェックが大切です。
- 分け目を変えることは進行を遅らせるのに効果的ですか?
-
分け目を変えることは、見た目のボリューム感を出す即効性のあるテクニックですが、FAGAの進行そのものを止めるわけではありません。しかし、同じ場所で分け続けることで、その部分の頭皮に紫外線ダメージや牽引(けんいん)力が集中し、局所的な薄毛を悪化させるリスクはあります。頭皮の負担を分散させるという意味では、定期的に分け目を変えることは頭皮の健康にとってプラスになります。
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