鏡を見るたびに「分け目が目立ってきたかもしれない」と不安を感じたり、母親や祖母の髪を見て「自分も将来こうなるのだろうか」と心配になったりしていませんか。
女性の薄毛(FAGA)は、確かに遺伝的な要素を含んでいますが、それが全てを決定づけるわけではありません。遺伝はあくまで「なりやすさ」を示す一つの指標に過ぎず、対策次第でコントロール可能です。
日々の生活習慣や適切なケアによって、そのリスクを管理し、美しい髪を維持することは十分にできます。
この記事では遺伝の仕組みから遺伝以外の見逃せない要因、そして今すぐ始められる具体的な対策までを網羅的に解説します。
漠然とした不安を正しい知識に変え、自信を持ってご自身の髪と向き合うための第一歩を踏み出しましょう。
遺伝と女性の薄毛(FAGA)には切っても切れない深い関係がある
遺伝は薄毛の発症リスクを高める重要な要素ですが、必ずしも発症を決定づけるものではありません。
親族に薄毛の方がいる場合でも、正しい知識を持って早めに対策を講じることでリスクを管理し、豊かな髪を保つことは十分に可能です。
母親や祖母からの遺伝リスクはどの程度影響するのか
私たちの体質や身体的特徴が両親や祖父母から受け継がれるように、髪質や頭皮の傾向も遺伝の影響を受けます。
特に女性の薄毛(FAGA)においては、母親や祖母といった母方の家系からの遺伝が一定の影響力を持つと考えられています。これは、薄毛に関連する遺伝情報の一部がX染色体上に存在するためです。
女性はX染色体を2本持っており、1本は父親から、もう1本は母親から受け継ぎます。母方の家系に薄毛の方がいる場合、その体質を受け継いでいる可能性は否定できません。
しかし、ここで重要なのは「遺伝=発症」ではないという点です。遺伝はあくまで「薄毛になりやすい体質」を受け継ぐ可能性を示唆しているに過ぎません。
例えば、同じ遺伝子を持っていても、生活環境や健康状態が異なれば、薄毛が発症しない場合や、発症しても軽度で済む場合が多くあります。
母親が薄毛だからといって、必ず自分も同じようになると悲観する必要はありません。むしろ、遺伝的リスクがあることを事前に知っていれば、人一倍気を使ってケアを行う動機付けになります。
その結果、何も対策をしない場合よりも、良い髪の状態を長く維持できるケースも多々あります。
FAGA発症に関わる遺伝子情報の仕組みを知る
薄毛に関わる遺伝子には、いくつかの種類が特定されています。中でも注目すべきは、男性ホルモンの一種であるアンドロゲンの受容体(レセプター)に関する遺伝子です。
FAGAは、体内のホルモンバランスが変化し、相対的に男性ホルモンの影響が強くなることで引き起こされる場合があります。このとき、頭皮にある受容体がホルモンに対してどれくらい敏感に反応するかを決めているのが遺伝子です。
受容体の感受性が高い遺伝子を持っていると、わずかなホルモンバランスの変化でもヘアサイクルが乱れ、髪の成長期間が短縮されてしまう傾向にあります。
その結果、髪が太く長く育つ前に抜け落ちてしまい、全体的なボリュームダウンにつながります。この感受性の高さこそが、親から子へと受け継がれる遺伝的要因の正体の一つです。
自分の体質的な傾向を理解することは、自分に合った対策を選ぶ上で非常に役立ちます。例えば、ホルモンバランスを整えるケアを重視すべきか、頭皮の血行促進に力を入れるべきかといった判断基準になります。
男性型脱毛症(AGA)の遺伝との決定的な違い
男性の薄毛(AGA)と女性の薄毛(FAGA)は、どちらも遺伝が関与しますが、その現れ方には大きな違いがあります。
男性の場合、遺伝的要因が発症に極めて強く影響し、特定のパターンで進行することが多いのに対し、女性の場合は要因がもっと複雑です。
女性の薄毛は「びまん性脱毛症」とも呼ばれ、頭頂部を中心に全体的に髪が細くなり、ボリュームが減っていくのが特徴です。
女性の場合、遺伝だけでなく、加齢、ホルモンバランスの変動、ストレス、極端なダイエット、頭皮の酷使など、複数の要因が絡み合って発症します。
つまり、男性に比べて遺伝の影響度は相対的に低く、後天的な環境要因の割合が高いと言えます。これは裏を返せば、生活習慣の改善や適切なケアによって、状況を好転させやすいという希望でもあります。
男性のように「遺伝だから仕方がない」と諦める必要は全くありません。女性の体は環境の変化に敏感ですが、それは良い変化にも反応してくれるということです。
遺伝だけではない!FAGA発症を引き起こす環境要因
遺伝的素因を持っていても、実際に薄毛が発症するかどうかは、日々の生活習慣や身体の内側の状態に大きく左右されます。
特にホルモンバランスや頭皮環境の悪化は、遺伝以上に直接的な引き金となることが多いため、これらの要因を取り除くことが大切です。
ホルモンバランスの乱れが髪の成長を阻害する
女性の髪の美しさを守っているのは、エストロゲンという女性ホルモンです。エストロゲンには髪の成長期を持続させ、ハリやコシを生み出す働きがあります。
しかし、このホルモンは30代後半頃から分泌量が徐々に減少し始め、更年期前後で急激に低下します。この保護膜のような役割を果たしていたエストロゲンが減少すると、相対的に男性ホルモンの影響力が強まり、FAGAの発症リスクが高まります。
また、出産後の一時的な抜け毛もホルモンバランスの急激な変化によるものです。通常は自然に回復しますが、高齢出産や育児ストレスが重なると、そのまま薄毛が定着してしまうこともあります。
不規則な生活や過度なストレスは、若い世代であってもホルモンバランスを乱す原因となります。以下のような生活環境は、知らず知らずのうちに髪の成長を妨げている可能性があります。
注意すべき生活環境の要因
- 慢性的な睡眠不足による成長ホルモンの分泌低下
- 偏った食生活による髪の原料となるタンパク質不足
- 過度なダイエットによる栄養失調状態
- 紫外線や誤ったヘアケアによる頭皮へのダメージ
- 喫煙習慣による血管収縮と頭皮への酸素供給不足
生理不順などが続いている場合は、髪への影響も出始めているサインかもしれません。日々の生活の中でホルモンケアを意識することは、髪を守る上で非常に重要です。
加齢によるヘアサイクルの変化と頭皮の血行不良
年齢を重ねると、体の代謝機能が落ちるのと同様に、髪の毛が生え変わるサイクル(ヘアサイクル)も変化します。
若い頃は数年間続く成長期が加齢とともに短くなり、髪が十分に育つ前に休止期に入ってしまうようになります。そのため、抜け毛が増えるだけでなく、一本一本の髪が細く短くなり、全体のボリュームが失われていきます。
また、加齢に伴い頭皮も老化します。頭皮が硬くなると毛細血管が圧迫され、髪の工場である毛母細胞に十分な栄養や酸素が届かなくなります。
血行不良は「冷え」とも密接に関係しており、冷え性の女性は頭皮の血流も滞りがちです。土壌である頭皮が痩せてしまっては、健康な髪は育ちません。
年齢に抗うことはできませんが、マッサージや運動で血流をサポートし、頭皮を柔らかく保つ努力は年齢による変化を緩やかにするために必要です。
ストレスや自律神経の乱れが招く頭皮環境の悪化
現代女性にとって避けて通れないのがストレスです。強いストレスを感じると自律神経の交感神経が優位になり、血管が収縮してしまいます。
この状態が続くと頭皮は常に栄養不足の状態に陥ります。さらに、ストレスはホルモンバランスを乱す大敵でもあり、FAGAの進行を加速させる強力な要因となります。
加えて、ストレスによって睡眠の質が低下することも問題です。髪の修復や成長は、主に寝ている間に行われます。深い眠りが得られないと、ダメージを受けた髪や頭皮が修復されず、翌日に持ち越されてしまいます。
心身の緊張を解きほぐし、リラックスする時間を確保することは、心の健康だけでなく、髪の健康を守るためにも極めて重要な取り組みです。
自分の遺伝的リスクを正しく把握し確認する方法
漠然とした不安を抱え続けるよりも、客観的な事実に基づいて自分のリスクを知ることが、適切な対策への近道です。専門的な検査や日々の観察を通じて自分の髪の未来を予測し、先回りしてケアを始めることができます。
専門機関で受けられる遺伝子検査のメリット
現在、多くの薄毛治療専門クリニックではFAGAのリスクを調べる遺伝子検査を提供しています。
これは血液や頬の粘膜を採取するだけの簡単な検査で、自分が「薄毛になりやすい遺伝子」を持っているかどうか、また「薄毛治療薬が効きやすい体質か」などを科学的に分析することができます。
この検査の最大のメリットは、自分に合った予防法や治療法が明確になることです。以下に、主な確認方法の特徴をまとめました。
確認方法の特徴比較
| 確認方法 | 特徴とメリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 医療機関での遺伝子検査 | 科学的根拠に基づいた正確なリスク判定が可能。将来の予測ができる。 | 費用がかかる(数千円〜2万円程度)。結果まで時間がかかる場合がある。 |
| マイクロスコープ診断 | 頭皮の状態や毛穴の詰まりを視覚的に確認できる。現状把握に適する。 | 遺伝的リスクそのものを判定するものではない。現在の症状確認が主。 |
| セルフチェック | 自宅で毎日行えるため、変化に気づきやすい。無料で手軽。 | 主観的な判断になりがちで、初期症状を見逃す可能性がある。 |
例えば、男性ホルモンの影響を受けやすい体質だと分かれば、ホルモンバランスを整える治療を優先的に選ぶことができます。
逆にリスクが低いと分かれば、過度な不安から解放され、基本的なケアに集中することができます。客観的なデータに基づいた判断は、無駄な出費や誤ったケアを避けるためにも役立ちます。
親族の状況から推測するセルフモニタリング
専門的な検査を受ける前に、まずは自分の家系を見渡してみることも有効な手段です。母方の祖母、母親、姉妹など、血縁関係のある女性たちの髪の状態を確認してみてください。
もし、多くの親族が年齢とともに薄毛に悩んでいるようであれば、自分も同様の体質を受け継いでいる可能性が高いと推測できます。特に発症した年齢や進行のパターン(分け目から薄くなる、全体的にボリュームが減るなど)は参考になります。
ただし、これはあくまで目安です。親族が誰も薄毛でなくても、自分だけが生活習慣の影響で発症することもありますし、その逆も然りです。
親族の状況は一つの参考情報として捉え、今の自分の髪の状態をしっかりと観察することが大切です。抜け毛の量が増えていないか、髪のセットが決まりにくくなっていないかなど、日々の変化に目を光らせましょう。
早めの気づきが未来の髪を守る鍵になる
FAGAは進行性の症状ですが、初期段階で気づき、対策を打てば、進行を食い止めたり、元の状態に戻したりすることが十分に可能です。
逆に、症状が進行しきって毛根が機能を失ってしまうと、回復は非常に困難になります。だからこそ、「まだ大丈夫」と思っているうちからリスクを把握し、予防を始めることが何よりも重要です。
遺伝子検査の結果が「高リスク」であったとしても、それは「対策を早く始めるべき」というサインであって、「必ずハゲる」という宣告ではありません。
リスクを早期に知ることは、未来を変えるための時間を手に入れることと同じです。自分の髪質や体質を深く理解し、自分だけのヘアケア戦略を立てるきっかけにしてください。
遺伝リスクと向き合いながら前向きに過ごす心構え
遺伝子は変えられませんが、運命は変えられます。リスクを恐れるのではなく、それを前提とした上でどう行動するかが大切です。ストレスを溜め込まず、できることから一つずつ取り組む姿勢が、結果として良い髪を育みます。
遺伝は変えられないが発症時期はコントロールできる
私たちが生まれ持った遺伝情報を書き換えることは、現代の技術ではできません。しかし、その遺伝子のスイッチが入るタイミングや、症状の進行スピードは、私たちの努力次第でコントロールできます。
例えば、糖尿病の家系に生まれた人が、食事や運動に気をつけることで発症を防いだり、遅らせたりすることができるのと同じ理屈です。
「遺伝だからもうダメだ」と諦めて不摂生な生活を続ければ、遺伝子のスイッチは早く入ってしまいます。
逆に、髪に良い生活を積み重ねれば、40代で発症するはずだったものを50代、60代へと先送りできるかもしれません。
また、発症したとしても、ケアを続けていれば進行を緩やかにし、周囲に気づかれないレベルを維持することも可能です。リスクと上手に付き合うためには、次のような視点を持つことが大切です。
リスクと上手に付き合うためのポイント
- 「薄毛=恥ずかしい」という思い込みを捨て、体の変化として受け止める
- 一人で悩み込まず、専門家や美容師に相談できる環境を作る
- 100点満点を目指さず、現状維持や少しの改善でも自分を褒める
- 情報に振り回されず、科学的根拠のあるケアを選択する
遺伝はスタート地点の違いに過ぎず、ゴールを決めるのはあなた自身の行動です。日々の小さな積み重ねが、数年後の大きな違いとなります。
過度な不安はストレスとなり逆効果を生む
皮肉なことに、「髪が薄くなったらどうしよう」という強い不安やストレスそのものが、FAGAを悪化させる大きな要因となります。
鏡を見るたびにため息をついたり、抜け毛の本数を数えて落ち込んだりしていては、心身共に緊張状態が続き、血行が悪化してしまいます。これでは、せっかくのケアも効果が半減してしまいます。
大切なのは、正しい知識を持って「やるべきことはやっている」という自信を持つことです。適切な対策を行っていれば、過度に恐れる必要はありません。
趣味の時間を持ったり、リラックスできる環境を整えたりして、薄毛の悩みから心を解放する時間を作ることも、立派なヘアケアの一つです。心に余裕を持つことが、結果的に髪にも良い影響を与えます。
薄毛を「体質」として受け入れ適切なケアを行う
遺伝的リスクがあるということは、あなたの髪が他の人よりも少しデリケートであるということです。
肌が弱い人が敏感肌用の化粧品を使うように、髪がデリケートな人は、髪に優しい生活を選ぶ必要があります。これを「不運」と嘆くのではなく、「自分の体をいたわるチャンス」と捉えてみてください。
薄毛対策のために行う食事改善や睡眠確保、適度な運動は、髪だけでなく、肌の調子を整えたり、体型を維持したりと、全身の美容と健康につながります。
遺伝リスクと向き合うことは、より健康的で美しい自分になるためのきっかけを与えてくれるものです。前向きな気持ちで、自分自身の体質と上手に付き合っていきましょう。
今日から始められる生活習慣による予防と対策
高価な育毛剤を使う前に、まずは髪を育てる土台となる体作りから始めましょう。食事、睡眠、運動といった基本的な生活習慣の見直しこそが、最も確実で効果的な薄毛対策となります。
髪の成長を助ける栄養素を積極的に取り入れる
髪は私たちが食べたものから作られます。栄養不足の状態では、生命維持に関わる臓器へ優先的に栄養が送られ、髪への供給は後回しにされてしまいます。
したがって、バランスの取れた食事を心がけ、髪の材料となる栄養素を十分に摂取することが必要です。特に、髪の主成分であるタンパク質(ケラチン)の合成には、亜鉛やビタミン類が欠かせません。
積極的に摂りたい栄養素と食材
| 栄養素 | 髪への働き | 多く含まれる食材 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 髪の毛の基礎となる主成分。不足すると髪が細くなりやすい。 | 肉類(赤身)、魚介類、卵、大豆製品、乳製品 |
| 亜鉛 | タンパク質を髪に変える際に必須。細胞分裂を促す。 | 牡蠣、レバー、牛肉、アーモンド、チーズ |
| ビタミンB群 | 頭皮の代謝を促し、皮脂バランスを調整する。 | 豚肉、レバー、カツオ、マグロ、バナナ、玄米 |
| 大豆イソフラボン | 女性ホルモンに似た働きをし、バランスを整える。 | 納豆、豆腐、豆乳、味噌、きな粉 |
無理な食事制限を伴うダイエットは、髪にとって最大の敵です。一時的に体重が減っても、髪がボロボロになっては美しさが損なわれます。
3食規則正しく食べ、特に朝食をしっかり摂ることで、体内時計を整え、代謝を上げることができます。外食やコンビニ食が多い場合は、サプリメントを上手に活用して不足分を補うのも賢い選択です。
質の高い睡眠で成長ホルモンの分泌を最大化する
「寝る子は育つ」と言いますが、髪も同様です。髪の成長に欠かせない成長ホルモンは、入眠後の深い眠りの時(ノンレム睡眠時)に最も多く分泌されます。
睡眠時間が短かったり、浅かったりすると、この恩恵を十分に受けることができません。理想的には7時間程度の睡眠を確保したいところですが、忙しい現代人にとっては難しい場合もあるでしょう。
そこで大切なのが「睡眠の質」です。寝る直前までスマートフォンを見ていると、ブルーライトの影響で脳が覚醒し、深い眠りに入りにくくなります。
就寝の1時間前にはデジタル機器を手放し、入浴や読書でリラックスする時間を作りましょう。また、枕やマットレスなどの寝具を見直すことも、質の高い睡眠への投資として有効です。
頭皮の血行を促進する毎日の運動とマッサージ
血液は栄養を運ぶトラックのようなものです。どんなに良い栄養を摂っても、血流が悪ければ頭皮まで届きません。
デスクワークなどで長時間同じ姿勢でいると、首や肩が凝り固まり、頭皮への血流が阻害されてしまいます。適度な有酸素運動、例えばウォーキングやヨガなどを習慣にし、全身の血行を良くすることが大切です。
また、直接的な頭皮マッサージも効果的です。シャンプーの際や入浴後の体が温まっている時に、指の腹を使って優しく頭皮を動かすようにマッサージしましょう。
強い力でこする必要はありません。頭皮が柔らかくなることで血流が改善され、毛根に栄養が届きやすくなります。毎日数分の習慣が、数年後の髪のボリュームに大きな差を生みます。
専門的なケアで進行を食い止めるという選択肢
セルフケアで限界を感じたら、医学の力を借りることも検討しましょう。現代の薄毛治療は進歩しており、早期に対処すれば高い確率で改善が見込めます。自分に合った治療法を知っておくことは安心材料になります。
医療機関での診断を受ける適切なタイミング
「まだ病院に行くほどではない」と迷っているうちに、症状が進行してしまうケースは少なくありません。
専門クリニックを受診する目安としては、「抜け毛の量が明らかに増えた」「髪の分け目が広がってきた」「髪全体のボリュームがなくなり、セットが決まらない」といった自覚症状が現れた時です。
また、親族に薄毛の方がいて心配な場合は、予防の観点から早めに相談に行くのも賢明な判断です。医療機関では、以下のような専門的な治療を受けることができます。
主な治療法と特徴
| 治療法・薬剤 | 期待できる効果 | 特徴・備考 |
|---|---|---|
| 外用薬(ミノキシジル) | 発毛を促進し、髪を太く育てる。血行促進作用。 | 日本皮膚科学会推奨。直接頭皮に塗布する。 |
| 内服薬(パントガール等) | 髪に必要な栄養を補給し、抜け毛を抑制する。 | 女性専用サプリメントや医薬品。副作用リスクが低い。 |
| 注入治療(メソセラピー) | 成長因子を頭皮に直接注入し、発毛機能を活性化。 | 即効性が期待できるが、医療機関での施術が必要。 |
専門医は、マイクロスコープによる頭皮診断や血液検査などを通じて、脱毛の原因を特定します。
それがFAGAなのか、甲状腺疾患などの病気によるものなのか、あるいは単なる一時的なストレスによるものなのかを医学的に判断してくれます。
内服薬や外用薬による治療への期待値
FAGA治療の基本は、内服薬と外用薬の併用です。外用薬として代表的なのがミノキシジルです。
ミノキシジルには毛包に直接作用して、細胞の増殖やタンパク質の合成を促進する働きがあります。女性用としては1%〜5%程度の濃度が一般的で、継続して使用することで発毛効果が認められています。
一方、内服薬は体の内側からアプローチします。ホルモンバランスを整える薬や、髪の成長に必要なアミノ酸やビタミンを高濃度で配合した薬などが用いられます。
これらは即効性がある魔法の薬ではありませんが、半年、1年と根気強く続けることで、徐々に抜け毛が減り、髪にコシが戻ってくるのを実感できるでしょう。
育毛剤や発毛剤の正しい選び方と使い方
市販のケア用品を選ぶ際、「育毛剤」と「発毛剤」の違いを理解しておく必要があります。
「育毛剤」は今ある髪を健康に保ち、抜け毛を防ぐためのもので、医薬部外品に分類されます。一方、「発毛剤」は新しい髪を生やす効果が認められた医薬品で、ミノキシジルなどが配合されています。
すでに薄毛が気になり始めている場合は、発毛剤を選ぶのが効果的です。使用する際は、頭皮が清潔な状態である入浴後などが適しています。
髪につけるのではなく、頭皮に直接塗布し、指の腹で優しく馴染ませるのがポイントです。効果が出るまでにはヘアサイクルの関係上、最低でも4〜6ヶ月はかかります。
1ヶ月で効果が出ないと止めてしまうのではなく、毎日のスキンケアと同じように習慣化し、長く続けることが何よりも大切です。
年代別にみるFAGAの発症傾向と必要な対策
女性の体はライフステージごとに大きく変化します。それぞれの年代で起きやすい髪のトラブルと原因を知り、年齢に応じた適切なケアを行うことで、いつまでも若々しい髪を保つことができます。
20代・30代で気になり始める初期症状への対応
「まだ若いから大丈夫」と思っていても、20代後半から30代にかけて髪の質の変化を感じる女性は増えています。
この年代の薄毛は、仕事のストレス、無理なダイエット、睡眠不足、出産後のホルモン変化などが主な原因です。年代によって悩みや対策は大きく異なります。
年代別悩みと対策アプローチ
| 年代 | 主な悩み・症状 | 推奨される対策 |
|---|---|---|
| 20代・30代 | パサつき、産後の抜け毛、ストレス性の薄毛 | 生活習慣の改善、ストレス発散、頭皮に優しいシャンプー |
| 40代・50代 | 分け目の広がり、うねり、更年期の急激な抜け毛 | イソフラボンの摂取、育毛剤、エイジングケア |
| 60代以降 | 全体的なボリュームダウン、地肌の透け感 | ウィッグ活用、ショートヘアへの変更、現状維持 |
この時期は回復力も高いため、生活習慣を整え、頭皮ケアを見直すだけで改善するケースが多くあります。シャンプーを低刺激なものに変える、頭皮マッサージを始める、食事バランスを整えるといった基本的なケアを徹底しましょう。
産後の抜け毛は一時的なものが多いですが、長引く場合は専門医に相談してください。早期のケアが将来の髪の運命を左右します。
更年期前後の40代・50代における急激な変化
40代から50代は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少し、FAGAの発症リスクが最も高まる時期です。
これまで気にならなかった分け目が目立ち始めたり、髪のコシがなくなってペタンとしたりする悩みが増えます。これを単なる老化と片付けず、ホルモンバランスの変化に対応したケアが必要です。
この年代では、減少した女性ホルモンを補うようなアプローチが有効です。大豆製品を積極的に摂ったり、エクオールなどのサプリメントを活用したりすることも一つの手です。
また、育毛剤や発毛剤の導入を本格的に検討すべき時期でもあります。美容室でも、ボリュームアップのためのカットや、頭皮への負担が少ないカラーリングなどを相談しましょう。
60代以降の維持とウィッグなどを活用した前向きな選択
60代以降になると、ある程度のボリュームダウンは自然な老化現象の一部となります。しかし、だからといって美しさを諦める必要はありません。
この年代の目標は、今ある髪を大切に維持し、頭皮を健康に保つことです。血行促進のためのマッサージや、保湿ケアを継続しましょう。
また、部分用ウィッグ(ヘアピース)やトップにボリュームを持たせるヘアスタイルを上手に活用するのも賢い選択です。
最近のウィッグは非常に精巧で自然なものが多く、手軽にボリュームアップできるため、多くの方がファッションの一部として楽しんでいます。
薄毛を隠すためだけでなく、ヘアスタイルを楽しむためのアイテムとして取り入れることで、お出かけも楽しくなり、気持ちも明るくなります。
Q&A
- 若い頃から薄毛予防を始めるべきですか?
-
はい、できるだけ早い段階から始めることを強くお勧めします。FAGAは進行性であり、症状が出てから対処するよりも、健康な状態を維持する方が容易だからです。
特に10代や20代のうちから、過度なカラーリングを控える、バランスの良い食事を摂る、質の良い睡眠を確保するといった生活習慣を身につけておくことは、将来の髪への最大の投資となります。
遺伝的リスクがある方は特に、頭皮環境を整える意識を若いうちから持つことが大切です。
- 父親が薄毛の場合も女性の私に遺伝しますか?
-
父親からの遺伝も可能性としてはゼロではありませんが、女性の薄毛に関しては、一般的に母親や母方の祖母からの遺伝的影響の方が強いと考えられています。
しかし、遺伝の仕組みは複雑で、父親の家系に薄毛の方がいる場合も、その体質を受け継ぐ可能性はあります。
どちらの家系であっても、遺伝は要因の一つに過ぎませんので、あまり神経質になりすぎず、ご自身の現在の髪の状態をしっかりと観察し、変化があれば早めに対策を行うことが重要です。
- 市販のシャンプーを変えるだけで改善しますか?
-
シャンプーを変えるだけで劇的に髪が生えてくるということは期待しにくいですが、頭皮環境を改善し、抜け毛を予防する効果は十分にあります。
洗浄力が強すぎるシャンプーは頭皮の必要な皮脂まで奪い、乾燥や炎症を引き起こす原因となります。
アミノ酸系などの頭皮に優しいシャンプーに変えることで、土台となる頭皮を健康に保ち、健康な髪が育ちやすい環境を作ることができます。育毛剤などの効果を高めるための基礎ケアとして考えてください。
- 一度薄くなった髪は元に戻りますか?
-
毛根が完全に機能を失っていない限り、適切な治療やケアによって改善する可能性は十分にあります。
特に女性の薄毛は、男性のように完全に髪がなくなることは稀で、全体的に細くなることが多いため、太く健康な髪に戻す余地が残されていることが多いです。
ただし、放置期間が長くなればなるほど回復は難しくなります。気づいた時点で早めに対策を開始することが、元のボリュームを取り戻すための最大の鍵となります。
- ダイエットは薄毛の原因になりますか?
-
はい、極端な食事制限を伴うダイエットは、薄毛の大きな原因となります。体は飢餓状態になると、生命維持に重要な心臓や脳などに優先的に栄養を送ります。
その結果、髪や爪といった末端の組織への栄養供給をストップしてしまいます。そのため、抜け毛が急増したり、髪が細くパサついたりします。
美しい髪を保ちながら痩せるためには、タンパク質やビタミン、ミネラルをしっかりと摂取し、運動を取り入れた健康的なダイエットを行うことが必要です。
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