鏡を見たときに以前よりも分け目が目立つように感じたり、髪を結んだ際の毛束の細さに不安を覚えたりすることは、多くの成人女性が経験する悩みです。
男性の薄毛が局所的に進行して頭皮が露出するのに対し、女性のFAGA(女性男性型脱毛症)は、髪一本一本が細くなり全体的にボリュームが失われていくという独特の進行パターンを辿ります。
「ハゲているわけではないけれど、なんとなく頭皮が透けて見える」という状態は、まさにこの女性特有の薄毛の典型的なサインです。
女性のFAGAがどのように進行するのか、そのメカニズムと特徴的なパターンを知ることは、現在の状態を正しく把握するために欠かせません。
早期に変化に気づき、適切な対策を講じることで、健やかな髪と自信を取り戻すことは十分に可能です。
女性特有の薄毛FAGAと男性のAGAとの決定的な違い
男性のAGAと女性のFAGAは、名称こそ似ていますが、その発症の仕方や進行の様子には明確な違いが存在します。男性の場合は生え際や頭頂部といった特定の部位から脱毛が始まり、最終的にはその部分の毛髪が失われることが多いです。
対して女性の場合は、髪全体の密度が低下し、一本一本が細くなることで頭皮が透けて見えるようになります。この違いを理解することは、適切なケアを選択する上で非常に重要です。
生え際の後退ではなく頭頂部の広範囲が薄くなる
多くの女性が気にするポイントとして、前髪の生え際の変化よりも、頭頂部や分け目周辺のボリュームダウンが挙げられます。
男性のAGAでは、額の生え際がM字型に後退したり、頭頂部がO字型に薄くなったりと、境界線がはっきりした脱毛が見られます。
男性型脱毛症と女性型脱毛症の比較
| 比較項目 | 男性のAGA | 女性のFAGA |
|---|---|---|
| 進行の特徴 | 生え際や頭頂部など局所的に脱毛し、地肌が完全に露出する | 頭頂部を中心に広範囲で髪が細くなり、地肌が透けて見える |
| 生え際の変化 | M字型に後退することが多い | 位置は変わらず維持されることが多い |
| 髪の状態 | 太い毛が抜け落ちて消失する | 太い毛が細い毛(軟毛)に変化して残る |
しかし、女性のFAGAにおいて、生え際の位置が大きく変わることは稀です。むしろ、頭頂部を中心とした広い範囲で、髪の密度が徐々に低下していく傾向にあります。
この「広範囲の密度低下」は、ある日突然起こるのではなく、長い時間をかけてゆっくりと進行します。そのため、毎日の鏡でのチェックでは気づきにくく、あるときふと撮った写真や、明るい照明の下で頭皮が透けているのを見て初めて自覚するケースが少なくありません。
生え際は維持されるため、正面から見た印象は大きく変わらないことも、発見が遅れる一因となります。
ホルモンバランスの変化が引き起こすヘアサイクルの乱れ
髪には「成長期」「退行期」「休止期」というヘアサイクルがあり、一定の期間成長した後に抜け落ち、また新しい髪が生えてくるというサイクルを繰り返しています。
通常、女性の髪の成長期は4年から6年程度と長く、この期間に髪は太く長く育ちます。FAGAを発症すると、この成長期が極端に短縮されます。成長期が短くなると、髪は十分に太く育つ前に成長を止めて退行期へと移行してしまいます。
この現象の背景には、女性ホルモン(エストロゲン)の減少と、相対的に優位になった男性ホルモンの影響が関係しています。エストロゲンは髪の成長期を持続させる働きを持つため、加齢やストレスなどで分泌量が減少すると、ヘアサイクルを維持する力が弱まります。
その結果、十分に育っていない細く短い髪が増え、全体のボリュームが減ったように感じられるのです。
完全な脱毛には至らず産毛として残る特徴
FAGAのもう一つの大きな特徴は、毛包(髪を作り出す工場のような組織)が完全に機能を停止して消失することは少ないという点です。男性のAGAでは、進行すると毛包がミニチュア化し、最終的には消失してツルツルの頭皮になることがあります。
女性の場合は毛包自体は残存しており、そこから生える髪が極端に細く短くなる「軟毛化」が主な症状です。つまり、髪が完全になくなってしまうのではなく、産毛のような状態になって留まっていると言えます。
これは、適切なケアを行えば、再び太く健康な髪へと育てる余地が残されていることを意味します。完全に「ハゲる」のではなく「薄くなる・透ける」という表現が使われるのはこのためであり、早期に対処すれば改善の可能性が高いという希望にもつながります。
びまん性脱毛症と呼ばれる全体的に透ける状態の正体
女性の薄毛において最も一般的とされる「びまん性脱毛症」は、特定の部分だけでなく頭髪全体が均一に薄くなっていく状態を指します。
FAGAはこのびまん性脱毛症の一種として分類されることが多く、その症状は日常生活の中で徐々に、しかし確実に現れます。
分け目が広がり地肌が目立つようになる初期症状
びまん性脱毛症の初期段階では、劇的な抜け毛の増加を感じるよりも、ヘアスタイルの決まりにくさや、分け目の見え方に違和感を覚えることの方が多いです。
以前はくっきりと一本の線だった分け目が、なんとなくぼやけて幅が広くなったように見えたり、頭皮の色がはっきりと目に入るようになったりします。
初期段階で感じやすい変化リスト
- いつもの分け目が以前より白く広く見える気がする
- 頭頂部の地肌が照明の下で光って見える
- ブラッシング時に抵抗感がなく、櫛がすぐに地肌に触れる
これは、分け目付近の髪の密度が下がり、根元の立ち上がりが弱くなっているために起こります。特に長年同じ場所で分け目を作っている場合、その部分の頭皮に負担がかかり続けていることや、紫外線によるダメージが蓄積していることも影響します。
分け目を変えてもすぐに元の場所で割れてしまう、あるいは新しい分け目を作っても地肌が透けて見える場合は、びまん性の薄毛が進行しているサインと考えられます。
髪一本一本が細く痩せていく軟毛化の進行
「薄毛」というと髪の本数が減ることだと思われがちですが、びまん性脱毛症の本質は「髪の質の変化」にあります。
毛穴の数は変わらなくても、そこから生えている髪の直径が小さくなれば、全体を覆う面積は劇的に減少します。これが「軟毛化」と呼ばれる現象です。健康な髪は太くハリがあり、内部にタンパク質がぎっしりと詰まっています。
軟毛化が進んだ髪は内部がスカスカになり、細く頼りない状態になります。指でつまんだときの感触が以前よりも薄く感じたり、髪を洗っているときに手触りが柔らかすぎると感じたりするのは、この軟毛化が進行している証拠です。
細くなった髪は光を透過しやすくなるため、結果として頭皮が透けて見える「透け感」を助長することになります。
ボリュームダウンによりスタイリングが決まらなくなる
髪全体のハリとコシが失われることで、ヘアスタイルの維持が困難になります。朝、ドライヤーやアイロンで根本を立ち上げても、昼過ぎにはペタンと潰れてしまったり、パーマをかけてもウェーブがきれいに出ずにダレてしまったりといった悩みが頻発します。
全体のシルエットが四角く平坦になりがちで、老けた印象を与えてしまうことも少なくありません。多くの女性が、この段階でシャンプーやスタイリング剤を変えるなどの工夫を試みますが、根本的な原因である髪の軟毛化が解消されない限り、劇的な改善は難しいのが現実です。
髪の量が減ったわけではないのに、束ねた髪の直径が以前の半分くらいに感じるという声も多く聞かれます。これは本数の減少以上に、一本一本の体積減少が全体のボリュームに大きく影響していることを示しています。
ルードウィッグ分類による進行レベルのセルフチェック
FAGAの進行度合いを客観的に判断するための指標として、世界的に用いられているのが「ルードウィッグ分類(Ludwig Scale)」です。
ご自身の現在の状態がどのグレードに当てはまるのかを知ることは、適切な対策を講じるための第一歩となります。
グレード1:頭頂部の分け目が薄くなり始めた段階
グレード1は、FAGAの初期段階です。この段階では、前頭部の生え際は保たれていますが、頭頂部の分け目が以前よりも目立つようになります。
髪の量自体が極端に減ったという自覚は薄いかもしれませんが、髪質が柔らかくなり、スタイリング時のボリュームが出にくくなっていることに気づくことが多いでしょう。
多くの女性が「最近髪が細くなったかも?」「分け目が気になる」と感じ始めるのがこの時期です。
ルードウィッグ分類の特徴一覧
| グレード | 頭皮の状態 | 自覚症状 |
|---|---|---|
| グレード1(初期) | 分け目の線が広がり始め、地肌が見える範囲がわずかに拡大する | ボリュームダウンを感じる、スタイリングが決まりにくい |
| グレード2(中期) | 分け目を中心に地肌の露出が広がり、頭頂部全体が透けて見える | 明らかに髪が薄くなったと感じる、地肌を隠す工夫が必要になる |
| グレード3(重度) | 頭頂部の広範囲で地肌が露出し、髪が非常に薄くなる | ウィッグやヘアピースの使用を検討するレベル、全体的に薄い |
他人からはまだ薄毛であると認識されないことも多いレベルですが、自分自身では変化を感じ取れる段階です。この時点で適切な頭皮ケアや生活習慣の見直しを始めることが、進行を食い止めるために非常に重要です。
グレード2:地肌の露出範囲が広がり透け感が強まる
グレード2に進むと、薄毛の症状はより明確になります。分け目の広がりはさらに顕著になり、頭頂部全体の髪の密度が明らかに低下します。
明るい場所や日差しの下では、頭皮がはっきりと透けて見えるようになり、周囲の人からも「髪が薄くなった」と気づかれる可能性があります。この段階では、髪の軟毛化がかなり進行しており、太く健康な髪の割合が減少しています。
髪の立ち上がりが失われるため、頭頂部が平坦になり、ヘアスタイルで薄毛をカバーすることが難しくなってきます。分け目を変えたり、ポンパドールのように前髪を上げたりして隠そうとしても、地肌の透け感を完全にはカバーしきれないことが増えてきます。
グレード3:頭頂部全体が薄くなり地肌が露わになる
グレード3は、FAGAがかなり進行した状態です。頭頂部の広範囲にわたって地肌が露出し、髪が生えていない部分が目立つようになります。
ただし、男性のAGAのように完全にツルツルになることは稀で、細く短い産毛のような髪は残っているケースが多いです。前頭部の生え際は依然として維持されていることが多いですが、頭頂部から後頭部にかけてのボリュームは著しく失われます。
この段階になると、自毛だけで薄毛を隠すことは困難となり、部分用ウィッグなどの使用を検討する方が増えます。
しかし、グレード3であっても毛包が完全に死滅しているわけではないため、専門的な治療やケアによって改善する可能性は残されています。
クリスマスツリーパターンなど特有の薄毛形状
ルードウィッグ分類以外にも、女性の薄毛には「クリスマスツリーパターン」などの特徴的なパターンが存在します。自身の薄毛がどのような形で進行しているかを知ることは、原因の特定や対策の参考になります。
前頭部の生え際から頭頂部へツリー状に広がる薄毛
クリスマスツリーパターンとは、前頭部の中央(分け目の始まり部分)から頭頂部に向かって、三角形を描くように薄毛が広がっていく状態を指します。上から見たときに、薄くなっている部分がクリスマスツリーのような形に見えることから名付けられました。
このパターンの特徴は、分け目のラインが単に太くなるだけでなく、特に前髪に近い部分の密度が低下し、そこから扇状に奥へと透け感が広がっていく点です。
主な薄毛パターンの名称と形状
| パターン名 | 形状の特徴 | 見え方 |
|---|---|---|
| クリスマスツリー型 | 前頭部中央から頭頂部へ向かって三角形に広がる | 分け目の始まりが扇状に薄く見える |
| ハミルトン型(男性型) | 生え際の両サイド(M字)や頭頂部が薄くなる | 男性のように生え際が後退する(女性では稀) |
| びまん型 | 全体的に均一に薄くなる | 特定の形を作らず、全体が透ける |
鏡で正面から見たときに、分け目の入り口部分が「ハの字」のように広がって見える場合は、このパターンに当てはまる可能性があります。生え際そのものは残っていますが、その直後から密度が急激に下がっているのが特徴です。
オルセン分類で見る前頭部中心の進行パターン
クリスマスツリーパターンは、オルセン分類という基準でも詳しく説明されます。この分類では、頭頂部だけでなく前頭部の密度低下を重視します。
多くのFAGAが頭頂部中心であるのに対し、このパターンでは前髪のボリュームダウンも顕著に感じられます。前髪が割れやすくなったり、前髪を作ってもスカスカで額が透けてしまったりするのは、前頭部付近の毛包が弱まっているサインです。
このエリアは顔の印象を大きく左右するため、進行すると実年齢以上に老けて見られる原因となりやすいです。前頭部から頭頂部にかけてのラインが集中的に攻撃を受けるこのパターンは、ホルモンの影響を強く受けている可能性が高いと考えられます。
側頭部や後頭部は保たれることが多い理由
FAGAの特徴として、頭頂部や前頭部が薄くなっても、側頭部(耳の周り)や後頭部(襟足付近)の髪は太く健康なまま保たれることが多いという点が挙げられます。
これは、頭皮の部位によってホルモンに対する感受性が異なるためです。前頭部や頭頂部の毛包には、男性ホルモンの影響を受けて脱毛因子を生成する受容体が多く存在します。
一方で、側頭部や後頭部の毛包にはこの受容体が少ないため、ホルモンバランスが変化しても影響を受けにくく、ヘアサイクルが正常に保たれやすいのです。
そのため、全体的に薄くなったと感じても、サイドや後ろの髪だけはしっかりと残っているという現象が起こります。この性質は、自毛植毛などの治療を行う際にも利用される重要な特徴です。
年齢とともに変化する女性ホルモンと薄毛の関係性
女性の体と髪は、ライフステージごとの女性ホルモンの変動と密接に関わっています。特に「エストロゲン」というホルモンは、髪の健康を維持し、成長期を延ばす重要な役割を担っています。
エストロゲンの減少が毛髪の成長期を短縮させる
エストロゲンは、髪の成長期間を長く保ち、ハリやコシのある健康な髪を育てる守護神のような存在です。20代後半から30代前半にかけて分泌のピークを迎えますが、その後は徐々に減少していきます。
エストロゲンが減少すると、これまで抑えられていた男性ホルモンの影響が相対的に強まり、ヘアサイクルにおける成長期が短縮されます。成長期が短くなるということは、髪が十分に太くなる前に抜け落ちてしまうということです。
ライフステージ別の髪とホルモンの関係
| 年代・時期 | ホルモンの状態 | 髪への影響 |
|---|---|---|
| 20代〜30代前半 | 分泌が安定しピークを迎える | 髪にハリ・コシがあり、最も美しい状態を保ちやすい |
| 30代後半〜40代 | 徐々に分泌量が減少し始める | 髪のうねりや細さが気になり始め、白髪も増える |
| 更年期(45〜55歳) | 急激に分泌量が低下する | FAGAが発症しやすく、急速に薄毛が進行する場合がある |
また、次に生えてくるまでの休止期が長くなる傾向もあり、これによって「今生えている髪」の総数が減少し、全体的なボリュームダウンにつながります。
年齢とともに髪が細く、うねりやすくなるのも、このホルモンバランスの変化が大きく影響しています。
更年期前後に急増する抜け毛と薄毛の悩み
閉経を挟んだ前後5年間の更年期は、女性ホルモンの分泌量が劇的に低下する時期です。この急激な変化に体がついていけず、様々な不調が現れますが、髪も例外ではありません。
これまで髪を守っていたエストロゲンの加護が急になくなることで、FAGAが一気に顕在化することがあります。更年期における薄毛は、加齢による毛包自体の老化と、ホルモンバランスの崩壊という二重の要因が重なるため、進行が早いのが特徴です。
この時期は自律神経の乱れや精神的なストレスも重なりやすく、それがさらに血流悪化を招き、頭皮環境を悪化させるという悪循環に陥りやすいのです。「急に髪が減った」と感じて慌てる方が多いのもこの年代の特徴です。
産後の分娩後脱毛症とFAGAの進行の違い
ホルモンバランスの変化による脱毛として有名なのが、出産後に起こる「分娩後脱毛症」です。妊娠中はエストロゲンが大量に分泌されるため、本来抜けるはずの髪が抜けずに成長期を維持し続けます。
しかし、出産を機にホルモン量が通常に戻ると、維持されていた髪が一斉に休止期に入り、大量に抜け落ちます。これは生理的な現象であり、通常は半年から1年程度で自然に回復します。
高齢出産の場合や、産後の体調回復が思わしくない場合、そのままFAGAへと移行してしまうケースもあります。
産後の抜け毛が1年以上続いている、あるいは戻ってきた髪が以前より明らかに細い場合は、単なる産後の抜け毛ではなく、FAGAの兆候である可能性を疑い、早めのケアを行うことが大切です。
生活習慣の乱れが加速させるFAGAの進行リスク
FAGAの根本的な原因は遺伝やホルモンバランスですが、日々の生活習慣がその進行スピードを加速させる「アクセル」の役割を果たしてしまうことがあります。
髪は生命維持に直接関わらない組織であるため、栄養不足や血行不良の影響を真っ先に受けます。
過度なダイエットによる栄養不足と頭皮環境の悪化
スリムな体型を維持したいという願いは多くの女性が持っていますが、食事制限を中心とした無理なダイエットは髪にとって大敵です。髪の主成分は「ケラチン」というタンパク質であり、その合成には亜鉛やビタミン類が必要です。
カロリーを制限しすぎてタンパク質の摂取量が不足すると、体は生命維持に重要な臓器へ優先的に栄養を回すため、髪への供給は後回しにされます。
脂質を極端に避けると頭皮の皮脂膜が作られなくなり、乾燥してバリア機能が低下します。
髪に悪影響を与えるNG習慣リスト
- 朝食を抜いたり、サラダだけの食事で済ませる
- 短期間で体重を落とすために糖質と脂質を完全にカットする
- スマホを長時間使用し、首や肩が凝り固まっている
乾燥した頭皮は炎症を起こしやすく、健康な髪を育てる土台としては不十分です。栄養失調状態の体では、いくら高価な育毛剤を使っても、髪を作る材料自体が足りていないため効果は期待できません。
髪は「食べたもの」から作られるという基本を忘れてはいけません。
慢性的なストレスが自律神経と血流に与える影響
現代社会においてストレスを完全に避けることは難しいですが、慢性的なストレス状態はFAGAを悪化させる大きな要因です。強いストレスを感じると、体は緊張状態になり、自律神経のうちの交感神経が優位になります。
交感神経が活発になると血管が収縮し、末梢の血流が悪くなります。頭皮は体の末端に位置しており、ただでさえ重力に逆らって血液を送らなければならない場所です。
血管収縮によって血流が滞ると、毛根に十分な酸素や栄養が届かなくなります。ストレスによって分泌されるホルモン「コルチゾール」の過剰分泌も、髪の成長を阻害することが分かっています。
リラックスする時間を意識的に作り、副交感神経を優位にすることは、髪の健康を守るためにも重要です。
睡眠不足が成長ホルモンの分泌を妨げる
睡眠は、日中に受けたダメージを修復し、体の組織を再生させるための大切な時間です。髪の成長に欠かせない「成長ホルモン」は、深い眠りについている間に集中的に分泌されます。
睡眠時間が不足したり、眠りの質が浅かったりすると、この成長ホルモンの分泌量が減少し、髪の修復や成長が十分に行われません。特に、寝る直前までスマートフォンを見ていると、ブルーライトの影響で脳が覚醒し、睡眠の質が低下します。
日付が変わる前にベッドに入り、少なくとも6時間以上の質の高い睡眠を確保することは、どんな高価なトリートメントよりも髪にとって有益なケアと言えるでしょう。
十分な睡眠は、ホルモンバランスを整え、自律神経を安定させるという意味でも、FAGA対策の基盤となります。
早期発見のために日常でチェックすべきサイン
FAGAは徐々に進行するため、初期段階ではなかなか気づきにくいものです。しかし、体は小さなサインを発信しています。そのサインをいち早くキャッチし、対策を始めることができれば、進行を食い止めることは十分に可能です。
排水溝や枕元に残る抜け毛の量と質の変化
最もわかりやすいサインは抜け毛です。健康な人でも1日に50本から100本程度の髪は抜けますが、その数が急激に増えたと感じる場合は要注意です。
お風呂の排水溝に溜まる髪の量が明らかに増えたり、朝起きた時に枕に付着している抜け毛が多かったりする場合は、ヘアサイクルに異常が起きている可能性があります。量だけでなく「質」も重要です。
抜け落ちた髪を観察してみてください。太くて長い髪が抜けているのであれば、それは自然な寿命で抜けた髪である可能性が高いです。
危険な抜け毛の特徴チェック表
| チェック項目 | 要注意な状態 | 考えられる原因 |
|---|---|---|
| 毛の太さ | 全体的に細く、頼りない | 軟毛化の進行、栄養不足 |
| 毛の長さ | 短く、先細りしている | 成長期の短縮、早期脱毛 |
| 毛根の形 | 膨らみがなく、しっぽのように細い | 毛根の委縮、血行不良 |
しかし、細くて短い、まだ成長途中と思われるような髪が多く混ざっている場合は危険信号です。これは成長期が短縮され、十分に育つ前に抜けてしまっている証拠であり、FAGA特有の症状です。
頭皮の硬さや色の変化が示す血行不良の兆候
健康な頭皮は、青白く透き通った色をしており、適度な弾力があります。しかし、血行が悪化したり炎症が起きたりしている頭皮は、赤っぽく変色していたり、茶色くくすんでいたりすることがあります。
頭皮の色は、今の頭皮環境を映し出すバロメーターです。また、頭皮の「硬さ」も重要です。
指の腹で頭皮を触ってみて、突っ張っているような硬さを感じる、あるいは頭蓋骨に皮膚が張り付いているようで動かない場合は、血流が滞っている証拠です。逆にブヨブヨとしていて指が沈み込むような感触がある場合は、むくんでいる可能性があります。
健康な髪は健康な土台からしか生まれません。頭皮の状態をチェックすることは、未来の髪の状態を予測することにつながります。
以前よりもポニーテールの束が細くなった感覚
日常的に髪を結んでいる女性にとって、その「束の太さ」の変化は非常に敏感なセンサーとなります。昔はヘアゴムを2回ねじればしっかり留まっていたのに、最近は3回、4回とねじらないと緩んでしまう、と感じたことはないでしょうか。
これは、髪一本一本が細くなり、全体のボリュームが減少していることの現れです。バレッタやクリップなどのヘアアクセサリーが、以前と同じ位置で留まらずに滑り落ちてしまうというのも同様のサインです。
このような物理的な変化は、鏡で見る視覚的な変化よりも先に現れることがあります。「ゴムが緩くなった気がする」という小さな違和感を放置せず、エイジングケアを始める合図と捉えることが大切です。
Q&A
- 年齢に関係なく発症する可能性はありますか?
-
はい、更年期以降の女性に多い症状ではありますが、年齢に関係なく発症する可能性があります。
特に近年では、過度なダイエットによる栄養失調や、仕事や人間関係による強いストレス、睡眠不足などの生活習慣の乱れが原因で、20代や30代の若い女性でも薄毛(若年性脱毛症)に悩むケースが増加しています。
年齢が若いからといって無関係ではないため、気になり始めたら早めのケアが必要です。
- 市販のシャンプーを変えるだけで薄毛は改善しますか?
-
シャンプーを変えること自体は頭皮環境を整えるために非常に重要ですが、それだけで薄毛が劇的に改善したり、髪が生えてきたりするわけではありません。
シャンプーの主な目的は「頭皮を清潔に保つこと」と「頭皮への負担を減らすこと」です。
薄毛の進行を食い止め、改善を目指すためには、シャンプーの見直しに加えて、育毛剤の使用、食事や睡眠などの生活習慣の改善、場合によっては専門機関での治療など、多角的なアプローチを組み合わせる必要があります。
- 一度薄くなった髪は、対策をすれば完全に元に戻りますか?
-
「完全に元通り(10代の頃のような状態)」に戻ることを保証するのは難しいですが、適切な対策を行うことで、現在よりもボリュームを増やしたり、ハリやコシを取り戻したりして、薄毛を目立たなくすることは十分に可能です。
特に女性の薄毛は、毛根が完全に死滅しているケースは少なく、休止しているだけのことが多いです。
そのため、正しいケアによってヘアサイクルが正常化すれば、改善の余地は大きく残されています。早めに対策を始めるほど、回復の可能性も高まります。
- 母親が薄毛だと、自分も必ず遺伝しますか?
-
遺伝は薄毛の一つの要因ではありますが、「必ず遺伝する」わけではありません。
薄毛になりやすい体質を受け継ぐ可能性はありますが、FAGAの発症には遺伝だけでなく、ホルモンバランス、食生活、ストレス、睡眠、頭皮ケアの習慣など、後天的な環境要因が大きく関わっています。
親族に薄毛の人がいる場合はリスクが高いと考えて予防を意識することは大切ですが、生活習慣を整えることで発症を遅らせたり、防いだりすることは十分に可能です。
- ストレスだけで薄毛になることはありますか?
-
はい、強いストレスは薄毛の直接的な原因になり得ます。ストレスを感じると自律神経が乱れ、血管が収縮して血行が悪くなります。これにより、頭皮や髪に十分な栄養が届かなくなります。
また、ストレスはホルモンバランスを乱す大きな要因でもあり、エストロゲンの分泌に悪影響を与えることがあります。
円形脱毛症のようにストレスが引き金となる場合もありますし、びまん性脱毛症の悪化要因としてもストレスは無視できない存在です。
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