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女性FAGAの原因は男性ホルモン?悪玉物質DHTがヘアサイクルを狂わせる仕組み

女性FAGAの原因は男性ホルモン?悪玉物質DHTがヘアサイクルを狂わせる仕組み

多くの女性が悩む薄毛、FAGA(女性男性型脱毛症)。その主たる原因として、男性ホルモンの一種であるテストステロンが変化して生まれる「ジヒドロテストステロン(DHT)」が深く関与しています。

本記事では、なぜ女性の体内で男性ホルモンが悪さをするのか、DHTがどのようにして正常なヘアサイクルを乱し、薄毛を進行させるのかを専門的な視点から詳細に解説します。

ホルモンバランスの崩れや遺伝的要因、そして今日から取り組める具体的な対策まで、科学的根拠に基づいた情報を網羅しました。

正しい知識を身につけ、適切なケアを行うことで、豊かで健やかな髪を取り戻す第一歩を踏み出しましょう。

目次

女性FAGAと男性ホルモンの意外な関係性

女性の体内にも男性ホルモンは常に存在し、健康維持のために重要な役割を果たしています。しかし、加齢やストレスでホルモンバランスが崩れると男性ホルモンの影響が強まり、FAGA(女性男性型脱毛症)の発症リスクを高める原因となります。

女性の体内にも存在する男性ホルモンの役割

「男性ホルモン」という名前から、男性特有のものと考えがちですが、実は女性の卵巣や副腎でもテストステロンなどの男性ホルモンを分泌しています。健康な女性の場合、男性の約10分の1から20分の1程度の量が血中に存在します。

このホルモンは、女性の体において筋肉や骨格の維持、性欲の調整、意欲や活力の向上など、生きていく上で非常に重要です。通常の状態であれば、女性ホルモンであるエストロゲンが豊富に分泌しているため、男性ホルモンの作用は適度に抑制されます。

髪の毛に対してはエストロゲンの「髪の成長を促し、成長期を維持する働き」が優位に立ちます。つまり、男性ホルモンが存在していても、女性ホルモンが十分に働いていれば、薄毛の問題は表面化しません。

身体機能を維持するために男性ホルモンは必要であり、それ自体が悪者というわけではないのです。以下の表で、それぞれのホルモンが果たす役割の違いを整理します。

ホルモン別:女性の体内で果たす主な役割

ホルモン名主な働き(身体面)髪への影響
エストロゲン
(卵胞ホルモン)
女性らしい丸みのある体を作る
骨密度を保つ
ヘアサイクルの成長期を延ばす
髪にハリ・コシを与える
プロゲステロン
(黄体ホルモン)
妊娠の準備と維持
体温上昇と水分の保持
ヘアサイクルの調整
(バランス調整に関与)
テストステロン
(男性ホルモン)
筋肉量の維持と骨格の強化
判断力や決断力の向上
体毛を濃くする作用
薄毛の原因物質に変化する可能性

ホルモンバランスの乱れが引き起こす影響

健康な頭皮環境を維持するためには、エストロゲンとテストステロンのバランスが極めて大切です。

しかし、過度なダイエット、慢性的な睡眠不足、職場の人間関係によるストレス、不規則な生活習慣などが続くと、自律神経が乱れ、ホルモンの分泌指令系統に狂いが生じます。

特に脳の視床下部はストレスに敏感で、卵巣への指令が滞るとエストロゲンの分泌量が減少します。その結果、本来の「髪を守る力」が弱まり、相対的にテストステロンの影響力が強まってしまいます。

これまで抑え込んでいた男性ホルモン由来の脱毛作用が顔を出し始めます。FAGAの初期段階では、全体的に髪のボリュームが減ったと感じることが多いですが、これはホルモンバランスの乱れにより、髪一本一本が細く弱くなっているサインと言えます。

この段階で生活習慣を見直し、ホルモンバランスを整える意識を持つことが、進行を食い止める大きな鍵となります。

加齢による女性ホルモンの減少と相対的優位

女性の体は30代後半から40代にかけて、卵巣機能が徐々に低下し始め、閉経を迎える更年期に向けてエストロゲンの分泌量が急激に減少します。これは自然な老化現象の一つですが、髪にとっては大きな試練の時期となります。

エストロゲンが激減する一方で、副腎などで作るテストステロンの分泌量はそれほど急激には減少しないため、体内における男性ホルモンの比率が高まる「相対的優位」の状態が生まれます。

この相対的優位な状態が続くと、後述する悪玉物質DHT(ジヒドロテストステロン)が生成しやすい環境が整ってしまいます。

更年期以降に薄毛の悩みが急増するのは、単なる加齢による細胞の老化だけでなく、このホルモンバランスの劇的な変化が直接的に関与しています。特に頭頂部や分け目の薄さが目立つようになるのは、この時期の特徴的な変化です。

年齢を重ねるごとに、外側からのケアだけでなく、内側のホルモン環境を意識したケアが重要性を増していきます。

悪玉物質DHTが生成される仕組み

FAGAの根本的な原因物質である「ジヒドロテストステロン(DHT)」は、無害なテストステロンが頭皮の特定酵素と結合することで生成され、強力な脱毛作用を発揮します。

テストステロンと還元酵素の結合

血液中を流れるテストステロンが毛乳頭細胞(髪の成長を指令する司令塔のような細胞)に到達すると、そこに待ち構えている「5αリダクターゼ(5α還元酵素)」という酵素と遭遇します。この5αリダクターゼは、テストステロンと結合する性質を持っています。

両者が結びつくことで化学反応が起こり、より強力な活性を持つ男性ホルモン「ジヒドロテストステロン(DHT)」へと変換します。DHTは別名「悪玉男性ホルモン」とも呼びますが、胎児期には男性器の形成に関わるなど重要な役割を持っています。

しかし、成人の頭皮においては、毛母細胞の分裂を抑制するシグナルを出す厄介な存在となります。つまり、テストステロンの量が多いか少ないかよりも、「5αリダクターゼとどれだけ結合してしまうか」が、DHTの生成量を左右し、薄毛の進行度合いを決定づける大きな要因となるのです。

DHTの生成にはいくつかの要因が複雑に関わっています。

DHT生成に関わる要素のリストアップ

  • 血液中を流れるテストステロンの基礎濃度
  • 毛乳頭細胞内に存在する5αリダクターゼの活性度
  • 個人差のある5αリダクターゼの絶対量
  • 生成したDHTを受け取る受容体の感度

5αリダクターゼの種類と特徴

テストステロンをDHTに変える元凶である5αリダクターゼには、「I型」と「II型」の2種類が存在し、それぞれ分布する場所や性質が異なります。

I型5αリダクターゼは、全身の皮脂腺に広く分布しています。頭皮においては側頭部や後頭部を含めた全体に存在し、脂っぽい肌質やニキビなどのトラブルとも関連しています。

一方、II型5αリダクターゼは、前頭部から頭頂部の毛乳頭に多く分布しており、AGA(男性型脱毛症)やFAGAの特徴である頭頂部の薄毛に深く関与しています。

女性のFAGAにおいては、広範囲に薄くなる「びまん性」の傾向が見えますが、それでも頭頂部の分け目が広がるケースが多いのは、このII型5αリダクターゼの影響が強く出ているためと考えます。

治療薬や育毛剤を選ぶ際も、このI型とII型のどちらに作用するか、あるいは両方を阻害するかという視点が必要になります。

DHTが毛根に与えるダメージの正体

生成したDHTは、毛乳頭細胞内にある「アンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)」と結合します。この結合が引き金となり、「TGF-β」や「DKK-1」といった脱毛因子(タンパク質)を作り出します。

これらの因子は、毛母細胞に対して「細胞分裂を止めろ」「成長を終了して抜けろ」という強力な退行指令を出します。本来であれば、髪は数年かけて太く長く成長しますが、DHTによる退行指令を受け取った毛根は、強制的に成長をストップし、休止状態へと移行します。

つまり、毛根が死滅するわけではなく、DHTという邪魔者が「成長するな」という誤った命令を出し続けることで、毛根が萎縮し、髪を作る機能を十分に発揮できなくなるのです。

この一連の流れを断ち切ることが、FAGA治療の最大の目的となります。

正常なヘアサイクルとFAGAによる乱れ

髪が生まれ変わる周期である「ヘアサイクル」が、FAGAによって乱されると成長期が短縮し、髪が十分に育つ前に抜け落ちるようになります。

成長期・退行期・休止期の基本サイクル

健康な女性のヘアサイクルは、「成長期」「退行期」「休止期」の3つのフェーズで構成し、全体で約4年から6年、長い人では7年ほどの周期で回っています。

「成長期」は、毛母細胞が活発に分裂し、髪が太く長く伸びる時期で、ヘアサイクル全体の約85〜90%を占めます。この期間が長いほど、髪は美しく成長します。

次に訪れる「退行期」は2〜3週間と短く、毛根が縮小し始め、髪の成長が止まる移行期間です。

最後の「休止期」は数ヶ月続き、髪の毛は成長を完全に止め、毛根の奥にとどまっているだけの状態になります。そして、その下で新しい髪が作られ始めると、古い髪は押し出されるように自然に抜け落ち、再び成長期が始まります。

このサイクルが順調に回っていれば、1日に50本〜100本程度の抜け毛があっても、全体の毛量は維持します。

ヘアサイクルの各フェーズ比較表

フェーズ期間(正常時)状態と特徴
成長期
(Anagen)
4年〜6年毛母細胞が活発に分裂。
髪が太く長く成長する。
全体の約90%がこの状態。
退行期
(Catagen)
2週間〜3週間細胞分裂が停止。
毛球部が退縮し、毛根が浅くなる。
全体の約1%未満。
休止期
(Telogen)
3ヶ月〜4ヶ月髪の成長が完全に停止。
次の髪の準備期間。

DHTによる成長期の短縮化現象

FAGAにおける最大の問題は、前述のDHTが成長期を極端に短くしてしまう点にあります。通常4〜6年あるはずの成長期が、DHTの影響を受けると数ヶ月から1年程度にまで短縮してしまいます。

成長期が短くなるということは、髪が十分に太く育つ前に成長が止まってしまうことを意味します。まだ産毛のような細く短い状態で退行期・休止期へと移行してしまうため、抜け毛の中に短く細い毛が混ざるようになります。

また、成長期の髪の割合が減り、休止期の髪の割合が増えるため、全体的な毛髪密度が低下し、地肌が透けて見えるようになります。この「成長期の短縮」こそが、FAGAによる薄毛の本質的な現象です。

ミニチュア化する毛髪と薄毛の進行

成長期が短縮を繰り返すと、毛包(毛根を包む組織)自体が徐々に小さく萎縮していきます。これを「毛包のミニチュア化」と呼びます。

一度ミニチュア化した毛包から生えてくる髪は、さらに細く、短く、弱々しいものになります。健康な髪が太い木だとすれば、ミニチュア化した髪はペンペン草のような状態です。

本数自体は変わっていなくても、一本一本の体積が激減するため、見た目のボリュームは大幅にダウンします。この状態を放置すると、最終的には毛包が機能を失い、産毛さえも生えなくなってしまう可能性があります。

しかし、毛包が完全に消失していない限り、適切な治療によってヘアサイクルを正常に戻し、太い髪を取り戻すチャンスは残っています。早期発見・早期対策が必要と言われるのは、このミニチュア化が進行しきる前に手を打つためです。

遺伝的要因とDHT感受性の高さ

FAGAの発症には遺伝が関与しており、特にDHTへの感受性や酵素活性の高さといった「薄毛になりやすい体質」が親から子へ受け継がれることがあります。

母方だけでなく父方からの遺伝も影響

「親が薄毛だと自分も薄くなる」とよく言いますが、FAGAにおいても遺伝は無視できない要因の一つです。

男性のAGAでは母方の祖父からの隔世遺伝が有名ですが、女性のFAGAにおいては、父方・母方双方からの遺伝的影響を受けます。

両親や祖父母の中に薄毛の人がいる場合、そうでない人に比べて発症リスクは高くなる傾向にあります。しかし、遺伝子を持っていれば必ず発症するわけではありません。

遺伝的要因はあくまで「なりやすさ」を示すものであり、そこに生活習慣の乱れや加齢によるホルモン変化などの環境要因が重なることで、初めてFAGAが発症します。

つまり、遺伝的リスクが高い人でも、生活習慣を整え、適切なケアを行うことで、発症を遅らせたり、症状を軽度に抑えたりすることは十分に可能です。

アンドロゲンレセプターの感度差

DHTがどれだけ強力な脱毛指令を出すかは、受け手である「アンドロゲンレセプター」の感度によって決まります。このレセプターの感度は遺伝によって大きく左右します。

感度が高い人は少量のDHTが発生しただけでも敏感に反応し、すぐに脱毛指令を出してしまいます。逆に感度が低い人は、多少DHTが増えてもレセプターが反応しにくいため、薄毛になりにくいと言えます。

女性の場合、男性に比べてこのレセプターの感受性は一般的に低い傾向にありますが、個人差が大きく、感受性が高い女性は若年層からFAGAの症状が出やすくなります。

自分がどの程度のリスクを持っているかを知ることは、対策を立てる上で非常に有益です。

遺伝子レベルで確認できる主なリスク要因は以下の通りです。

遺伝子レベルでのリスク要因リスト

  • アンドロゲンレセプター(受容体)の感受性の強弱
  • 5αリダクターゼ酵素の活性力の強さ
  • 家系内における薄毛発症者の有無と発症年齢

遺伝子検査でわかる発症リスク

現在では、専門のクリニックなどで遺伝子検査を受けることが可能です。この検査では血液や唾液、粘膜などを採取し、アンドロゲンレセプターの感受性を調べるCAGリピート数などを分析します。

検査結果によって、自分が将来FAGAを発症するリスクがどの程度あるのか、また、もし発症した場合にフィナステリドなどの5αリダクターゼ阻害薬が効きやすい体質かどうかが予測できます。

漠然とした不安を抱えるよりも、客観的なデータに基づいて自分の体質を理解することで、より効率的で無駄のない予防策や治療計画を立てることができます。

特に家族に薄毛の人がいて心配な方は、一度検査を検討してみる価値があります。

生活習慣がホルモンバランスに与える影響

過度なストレスや睡眠不足といった生活習慣の乱れは、ホルモンバランスを崩してDHTの影響を強め、FAGAの進行を早める大きな要因となります。

ストレスと自律神経の乱れ

強いストレスは、髪にとって最大の敵の一つです。人間はストレスを感じると、交感神経が優位になり、血管が収縮します。頭皮の毛細血管が収縮すると、髪の成長に必要な酸素や栄養素が毛根まで届きにくくなり、栄養不足による抜け毛を招きます。

さらに深刻なのはホルモンへの影響です。脳がストレスを感じると、ホルモン分泌の司令塔である視床下部が混乱し、女性ホルモンの分泌指令が正常に出せなくなります。

その結果、エストロゲンが減少し、相対的に男性ホルモンの影響が強まってしまいます。仕事や育児、介護などでストレスをゼロにすることは難しいですが、自分なりの解消法を見つけ、こまめに発散することが、髪を守ることにもつながります。

睡眠不足が招くホルモン分泌の低下

「寝不足はお肌に悪い」と言いますが、髪にとっても同様に悪影響を及ぼします。髪の成長に関わる成長ホルモンは、入眠後の深い睡眠中(ノンレム睡眠)に最も多く分泌します。

また、傷んだ細胞の修復も睡眠中に行います。慢性的な睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が滞り、毛母細胞の分裂活動が低下します。さらに、自律神経のバランスが崩れ、エストロゲンの分泌にも悪影響を与えます。

質の高い睡眠をとることは、高価な育毛剤を使うことと同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。就寝前のスマホ操作を控える、入浴で体を温めるなど、睡眠の質を高める工夫が必要です。

生活習慣と髪への悪影響の相関図

生活習慣体内での反応FAGAへの影響
過度なストレス交感神経優位による血管収縮
ホルモン指令系統の混乱
血行不良による栄養不足
DHT優位の状態へ
睡眠不足
(質の低下)
成長ホルモン分泌の減少
細胞修復機能の低下
毛母細胞の活性低下
ヘアサイクルの乱れ加速
喫煙ニコチンによる血管収縮
ビタミンCの大量消費
頭皮への血流阻害
抗酸化力の低下

偏った食生活と栄養不足の問題

無理なダイエットや偏食は、髪の材料不足を招きます。髪は「ケラチン」というタンパク質で構成していますが、これを作るためには良質なタンパク質のほか、亜鉛やビタミン類などの微量栄養素が必要です。

特に亜鉛は髪の合成に必須であるだけでなく、5αリダクターゼの働きを抑制する作用も期待できる重要なミネラルです。また、糖質や脂質の摂りすぎは、皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境を悪化させる原因になります。

揚げ物やスナック菓子ばかり食べていると頭皮が炎症を起こしやすくなり、抜け毛を助長します。髪は生命維持に関わらない組織であるため、栄養不足になると真っ先に供給がカットされます。

バランスの取れた食事を心がけることは、健康な髪を育てる土台作りとして大切です。

FAGAと他の脱毛症との違い

女性の抜け毛にはFAGA以外にも円形脱毛症や牽引性脱毛症などがあり、それぞれ原因と対処法が異なるため、正しく見極めることが重要です。

円形脱毛症との明確な区別

女性の抜け毛の原因はFAGAだけではありません。自己判断でケアを始めると、的外れな対策になってしまうこともあります。FAGAと似ているようで異なる他の脱毛症との違いを正しく理解し、適切な対処法を見極めることが大切です。

円形脱毛症は、ある日突然10円玉サイズや500円玉サイズで髪がごっそりと抜け落ち、境界線がはっきりしているのが特徴です。これは自己免疫疾患の一種と考えられており、自分の免疫細胞が誤って毛根を攻撃してしまうことで起こります。

一方、FAGAは数年かけて徐々に進行し、境界線はあいまいで、全体的に薄くなっていくのが特徴です。円形脱毛症はストレスが引き金になることもありますが、FAGAとは発生の仕組みが全く異なります。

円形脱毛症の場合は、皮膚科でのステロイド治療や局所免疫療法などが有効であり、FAGAの治療薬とはアプローチが異なります。

びまん性脱毛症という大きな枠組み

「びまん性脱毛症」とは、特定の場所ではなく、頭髪全体が均等に薄くなる状態を指す総称です。FAGAも症状としてはびまん性の脱毛を呈するため、広い意味ではびまん性脱毛症に含まれます。

しかし、狭義のびまん性脱毛症には、甲状腺機能の低下や貧血、急激なダイエットによる栄養失調、薬剤の副作用などが原因のケースも含まれます。これらは原因となっている疾患や栄養不足を解消すれば改善する可能性があります。

対してFAGAは、これまで解説してきた通り、ホルモンバランスとDHTが主原因であるため、それに対する特異的なアプローチが必要です。自分が単なる栄養不足なのか、ホルモン性のFAGAなのかを見極めるには、専門医による診断が重要です。

脱毛症タイプ別の特徴比較

脱毛症タイプ進行スピードと特徴主な原因
FAGA
(女性男性型脱毛症)
数年かけて緩やかに進行。
頭頂部から分け目が広がる。
ホルモンバランスの変化
DHTの影響と遺伝的素因
円形脱毛症突発的に発生。
境界明瞭な脱毛斑。
自己免疫疾患
アトピー素因やストレス
牽引性脱毛症特定の髪型を続けると徐々に。
生え際や分け目が後退。
ポニーテールなど
物理的な引っ張りによるダメージ

牽引性脱毛症や産後脱毛との比較

毎日同じ場所できつく髪を結んだり、エクステをつけたりすることで、物理的な負担がかかって抜けるのが「牽引性(けんいんせい)脱毛症」です。これは髪型を変え、毛根を休ませることで自然に回復します。

また、「分娩後脱毛症(産後脱毛)」は、妊娠中に高濃度で維持していた女性ホルモンが出産後に急激に通常レベルに戻ることで、抜けるはずだった髪が一気に抜け落ちる現象です。

一見驚きますが、これは生理的な現象であり、通常は半年から1年程度で自然に元の毛量に戻ります。

FAGAと違い、これらは原因が一時的なものであるため、過度な心配は不要ですが、回復期に栄養不足やストレスが重なると、そのままFAGAへ移行してしまうケースもあるため注意が必要です。

今日からできるホルモンバランス対策

大豆製品の摂取や有酸素運動など、日々の生活習慣を見直してホルモンバランスを整えることは、FAGAの進行を抑えて健やかな髪を育てるための土台となります。

大豆イソフラボンの積極的な摂取

FAGAの原因であるDHTの影響を最小限に抑え、女性ホルモンの働きをサポートするために、日常生活でできることはたくさんあります。医療機関での治療と並行して、日々のセルフケアを行うことで、より確実な改善効果が期待できます。

大豆に含まれる「イソフラボン」は、体内で女性ホルモンのエストロゲンと似た分子構造を持ち、似た働きをすることから「植物性エストロゲン」とも呼びます。

減少してしまったエストロゲンの働きを補う効果が期待できるため、FAGA対策には非常に有効な食材です。納豆、豆腐、豆乳、味噌などの大豆製品を毎日の食事に取り入れるよう意識してください。

ただし、サプリメントなどで過剰に摂取しすぎると、かえってホルモンバランスを乱す可能性もあるため、基本は食事から適量を摂取することを推奨します。

さらに、イソフラボンから作られる「エクオール」という成分が作れる体質の人は、より高い効果を得やすいと言われています。

有酸素運動による血流改善効果

適度な運動は、全身の血行を促進し、頭皮への栄養供給をスムーズにします。特にウォーキングやジョギング、ヨガなどの有酸素運動は、自律神経のバランスを整え、ストレスホルモンを減少させる効果があります。

また、筋肉を動かすことで、テストステロンが健全に消費し、余剰なテストステロンがDHTへ変換するのを防ぐ効果も期待できます。激しい運動である必要はありません。

1日20分程度、軽く汗ばむくらいの運動を習慣化することが、代謝を高め、若々しい髪と体を維持する秘訣です。日常生活で実践すべきケアを以下の表にまとめました。

日常生活で実践すべきケア一覧表

対策カテゴリー具体的なアクションと期待される効果
食事・栄養大豆製品の摂取:バランス調整
亜鉛の補給:髪の合成促進
ビタミンB群:皮脂コントロール
運動・血流有酸素運動:血行促進とストレス発散
頭皮マッサージ:直接的な血流改善
メンタルケア入浴タイム:副交感神経を優位に
アロマテラピー:香りで脳を鎮静化

リラックスタイムの確保と副交感神経

現代女性は常に交感神経が優位な「戦闘モード」になりがちです。意識的に副交感神経を優位にするリラックスタイムを作ることが、ホルモンケアには必要です。

38度から40度くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かる入浴は、副交感神経を刺激する最高の方法です。また、寝る前に深呼吸をしたり、好きな香りを嗅いだりすることも有効です。

副交感神経が優位になると、血管が拡張し、末梢である頭皮まで血流が行き渡ります。また、心身がリラックスすることで、ホルモン分泌の中枢も正常に機能しやすくなります。

「頑張りすぎない時間」を作ることが、結果として美髪への近道となります。

専門機関での相談という選択肢

セルフケアには限界があることも事実です。進行してしまったFAGAの場合、生活習慣の改善だけでは発毛させるのが難しいこともあります。そのような場合は、薄毛治療専門のクリニックに相談することを検討してください。

医療機関では、ミノキシジルなどの発毛剤や、パントガールなどの内服薬、メソセラピーなどの直接的な治療を受けることができます。また、血液検査で正確なホルモン値を知ることもできます。

セルフケアと医療的な治療を組み合わせることで、より効率的かつ確実に悩みを解決できる可能性が高まります。一人で悩まず、専門家の力を借りることも、賢い選択肢の一つです。

Q&A

DHTを減らす食べ物はありますか?

直接的にDHTを消滅させる食べ物はありませんが、DHTの生成に関わる5αリダクターゼの働きを抑制する効果が期待できる成分はあります。代表的なのが「亜鉛」や「イソフラボン」です。

亜鉛は牡蠣、ナッツ類、レバーなどに多く含まれ、イソフラボンは大豆製品に含まれます。また、ノコギリヤシというハーブも5αリダクターゼ抑制作用があると言われており、サプリメントとして利用する方もいます。

これらをバランスよく摂取することで、間接的にDHTの影響を抑えるサポートになります。

シャンプーを変えれば改善しますか?

シャンプーだけでFAGAそのものを治療することはできません。FAGAは体内でのホルモン作用が主原因だからです。しかし、頭皮環境を整えることは非常に重要です。

洗浄力が強すぎるシャンプーは頭皮を乾燥させ、炎症を招く恐れがあります。アミノ酸系などの低刺激なシャンプーを使い、頭皮を健やかに保つことは、これから生えてくる髪にとって良い土壌を作ることになり、抜け毛予防の基礎として大切です。

若い女性でも発症する可能性はありますか?

はい、あります。FAGAは更年期以降に多いですが、20代や30代で発症することも珍しくありません。

「若年性FAGA」と呼ばれ、過度なストレス、激しいダイエット、ピルの中止、遺伝的要因などが重なることで発症します。若いからといって油断せず、抜け毛が増えたり、分け目が気になり出したりした場合は、早めに生活習慣を見直し、専門家に相談することをお勧めします。

市販の育毛剤とクリニックの治療薬の違いは何ですか?

最大の違いは「有効成分の濃度と作用の強さ」です。市販の育毛剤は、主に頭皮の血行促進や保湿、抗炎症作用により「今ある髪を育てる・抜け毛を防ぐ」ことを目的とした医薬部外品が多いです。

一方、クリニックで処方される治療薬(ミノキシジル内服薬や外用薬など)は、医学的に発毛効果が認められた医薬品であり、「新しい髪を生やす」という強力な作用を持っています。効果が高い分、副作用のリスクもあるため、医師の管理下で使用する必要があります。

DHT検査キットは信頼できますか?

市販のAGA/FAGAリスク検査キットや遺伝子検査キットは、一定の科学的根拠に基づいていますが、あくまで「リスクの高さ」や「体質の傾向」を判定するものです。

現在のDHTの絶対量や、薄毛の進行度を確定診断するものではありません。検査結果は、今後の対策を立てるための参考指標として活用し、実際の診断や治療方針の決定については、専門医の診察を受けるのが確実です。

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