急性休止期脱毛症の特徴と見分け方|ストレスで突発的に髪が抜けるメカニズム

急性休止期脱毛症の特徴と見分け方|ストレスで突発的に髪が抜けるメカニズム

急激な抜け毛に襲われる急性休止期脱毛症は、精神的な負荷や身体的な異変をきっかけに、本来なら成長を続けるはずの髪が休止期へ一斉に移行することで発生します。

本記事では、この脱毛症の具体的なサインや、男性特有の薄毛であるAGAとの見極め方を詳しく解説します。原因となる体の内部の変化を正しく理解し、ふさわしい生活改善に取り組むことが、髪の再生に向けた確かな一歩となります。

目次

急性休止期脱毛症の基礎知識と発症の原因

急性休止期脱毛症は、心身に加わった過度な負荷が原因で毛周期が乱れ、髪の毛が一時的に大量に抜けてしまう症状を指します。

通常、私たちの髪の毛は一定のサイクルで生え変わっています。しかし、大きなショックや体調の変化が起こると、成長期にあった髪が強制的に終了します。

この結果、本来なら数年かけて抜けるはずの毛髪が、わずか数ヶ月の間にまとまって抜け落ちる事態を招きます。一見すると恐ろしい現象ですが、毛根自体が死滅しているわけではありません。

ストレスが自律神経に与える影響

精神的に強い負荷がかかると、私たちの自律神経はバランスを崩し、交感神経が異常に高ぶった状態になります。交感神経が優位になりすぎると、全身の末梢血管が収縮し、血液の流れが悪化します。

頭皮は体の中でも末端に位置するため、血流低下のダメージを真っ先に受けやすい部位です。髪を育てる毛母細胞に栄養が届かなくなると、細胞分裂が維持できなくなります。

こうした血行の不順が引き金となり、まだ若く健康だったはずの髪の毛が、成長をあきらめて休止期へ入ってしまいます。感情の揺れが、物理的に髪の寿命を縮めてしまうのです。

毛周期が乱れる具体的な仕組み

髪の毛のサイクルには成長期、退行期、休止期の3つがあります。急性休止期脱毛症では、このサイクルのうち「成長期」が極端に短縮されることが問題となります。

通常であれば髪の9割近くが成長期にありますが、異常事態が起きるとその割合が激減します。数千本から数万本の毛根が同時に「お休みモード」に切り替わってしまうのです。

活動を止めた毛根は、その場ですぐに抜けるわけではありません。休止期に入ってから約3ヶ月ほど、頭皮に留まった後に抜け落ちます。

発症のきっかけとなる主な要因

分類具体的な内容体への影響
精神的負荷激務・別れ・重圧自律神経の失調
身体的異変高熱・手術・飢餓代謝機能の停止
外的変化転居・転職・公害適応障害の誘発

身体的な負担と脱毛の相関関係

急激なダイエットや高熱を伴う疾患も、髪にとっては重大な脅威となります。体は生命の危機を感じると、重要な臓器への栄養供給を優先させます。

髪の毛は生命維持に直接関係がないため、栄養の供給リストから真っ先に外されます。この働きが広範囲にわたる休止期脱毛を引き起こす直接の理由です。

特に男性の場合、短期間での過度な減量や、栄養バランスを無視した食事が原因になるケースが目立ちます。内臓への負担が、巡り巡って頭皮の毛母細胞を飢えさせてしまうのです。

突然の抜け毛に驚かないための特徴的な症状

この脱毛症の最大の特徴は、ある日突然、洗髪時や起床時の抜け毛が普段の数倍に膨れ上がることです。

円形脱毛症のように一部分がツルツルになるのではなく、頭部全体が薄くなったように感じます。また、頭皮に痛みや激しい痒みが出ないことも、この症状を見分ける重要な手がかりとなります。

抜け毛の量が増える時期の目安

抜け毛が本格化するのは、原因となる出来事から約2ヶ月から4ヶ月が経過した頃です。この時間差があるため、多くの人が「なぜ今抜けるのか」と困惑します。

数ヶ月前の自分を振り返り、過度な残業や体調不良がなかったかを確認してください。原因を特定できれば、過剰な恐怖心を取り除くことができるはずです。

ピーク時には1日に数百本の毛が抜けることも珍しくありません。しかし、これは休止期に入った毛が押し出されているだけであり、新しい毛が準備されている証でもあります。

抜けた髪の毛の形や色の見分け方

抜けた髪の毛の「根元」をよく観察してみることで、状態を把握できます。休止期脱毛症で抜けた毛の根元は、白っぽく丸い形をしています。

これは毛根が自然に活動を終えた形であり、マッチ棒の先端のような形状であれば、それほど心配はいりません。一方で、根元が細く尖っていたり、黒い付着物があったりする場合は注意が必要です。

抜けた髪のチェックポイント

  • 毛根が丸く白い
  • 髪の太さが均一
  • 毛先が切れていない
  • 付着物がない

頭皮の状態に見られる変化

休止期脱毛症そのものは、頭皮に激しい炎症を起こすものではありません。鏡で頭皮を見た際、極端な赤みや分厚いフケが出ていないかを確認しましょう。

もし頭皮が健康な青白い色を保っているなら、内部的な要因による脱毛である可能性が高いです。逆に、強い赤みや湿疹がある場合は、皮膚疾患が抜け毛を助長している恐れがあります。

頭皮を触ってみて、以前よりも硬くなっていると感じる場合は注意が必要です。筋肉の緊張が解けていない証拠であり、毛根への栄養路が狭まっているサインだと言えます。

男性に多い脱毛症との違いを判断する方法

男性の薄毛にはAGA(男性型脱毛症)という遺伝的要因が強いものがありますが、休止期脱毛症とは進行の仕方が全く違います。

AGAは数年から十数年かけてゆっくりと髪が細くなっていくのに対し、休止期脱毛症は数週間のうちに劇的な変化が起こります。この進行速度の違いを把握することが、不安を取り除くための第一の関門です。

AGAとの進行スピードの比較

AGAは「気づかないうちに少しずつ」薄くなっていくのが一般的です。一方、急性休止期脱毛症はある日突然、排水溝に詰まる毛の量に驚くことから始まります。

この急激な変化は、遺伝子による影響ではなく、体調や環境の変化に対する身体の反応です。数週間のうちにボリュームが減ったと感じるなら、一時的な脱毛症を疑うのが自然な判断となります。

脱毛が起こる部位の広がり方

AGAは主に生え際や頂部から集中的に薄くなっていきます。これに対して、休止期脱毛症は頭部全体の密度が平均的に下がっていくという特徴を持っています。

側頭部や後頭部といった、AGAの影響を受けにくい場所まで髪が薄くなっているなら、休止期脱毛症の可能性が高いでしょう。頭の一部だけでなく、全体の地肌の透け具合をチェックすることが大切です。

脱毛症ごとの主な特徴

項目AGA急性休止期脱毛症
開始時期思春期以降徐々に負荷の数ヶ月後に急激
範囲特定の部位のみ頭髪全体が均等に
毛の質産毛のように細くなる太い毛がそのまま抜ける

併発する可能性がある他の皮膚トラブル

男性の場合、多忙や重圧によって皮脂の分泌が過剰になり、脂漏性皮膚炎を併発することがあります。脂漏性皮膚炎が加わると、頭皮の環境が悪化し、抜け毛に拍車がかかるリスクが高まります。

休止期脱毛症は「抜け落ちる現象」ですが、皮膚炎は「育つ場所を壊す現象」です。この二つが重なると、本来ならすぐに戻るはずの髪も、再生が遅れてしまいます。

ストレスによって髪が抜ける体の内部環境

精神的な重圧がかかると、私たちの体の中では髪の成長を妨げるような化学反応が次々と起こります。

特にホルモンの分泌バランスが崩れることで、毛母細胞のエネルギー源が絶たれてしまうのが大きな問題です。この内面的な不調を整えない限り、いくら高価な育毛剤を使っても、十分な成果を得ることは難しいでしょう。

ホルモンバランスの変動が招く毛根の弱体化

人間は負荷を感じると、副腎からコルチゾールというホルモンを放出します。このホルモンが過剰になると、全身のタンパク質代謝が阻害されるようになります。

髪の9割以上はケラチンというタンパク質でできているため、代謝が滞れば髪の生産ラインも止まってしまいます。また、男性ホルモンのバランスも乱れ、髪の成長維持に必要な信号が毛根に届かなくなります。

血流悪化による栄養不足の連鎖

髪の細胞は、血液から運ばれてくる酸素とアミノ酸だけを頼りに分裂を繰り返しています。しかし、緊張状態が続くと血管が収縮し、毛根への配送ルートが遮断されます。

こうした状態が続くと毛母細胞は飢餓状態を回避するために、一時的に活動をシャットダウンします。これが「休止期への強制移行」であり、体の一部を切り捨てて本体を守るための防御反応なのです。

体内環境の変化によるリスク

  • タンパク質合成の遅延
  • 血管収縮による低酸素
  • 細胞分裂の抑制
  • 毛サイクルの強制終了

睡眠不足が毛母細胞に及ぼすダメージ

髪の成長を支える最大の味方は、深い眠りの中で分泌される成長ホルモンです。精神的な悩みで眠れなくなると、このホルモンの恩恵を全く受けられなくなります。

夜間に十分な修復が行われない毛根は、次第に体力を失い、休止期へと流れていきます。不規則な生活や短時間睡眠は、髪を育てるチャンスを自ら捨てているのと同じことなのです。

抜け毛を抑えるための生活習慣の改善点

脱毛を食い止めるためには、まずは身体が「安心できる環境」であることを細胞に伝える必要があります。

食事、休息、清潔の三本柱を整えることが、髪の再生を早めるための最も近道となります。特別な治療を始める前に、まずは土台となる自分自身の生活を見直すことから始めましょう。

髪の成長を助ける食事の栄養素

髪を構成する材料を豊富に摂取することが、再成長のスイッチを押すための第一歩です。特に肉、魚、卵などの良質なタンパク質は、毎日欠かさずに摂るようにしてください。

さらに、亜鉛やビタミンB群はタンパク質の合成を助ける重要な脇役です。インスタント食品や偏った食事が多い男性は、意識的に納豆やナッツ類を取り入れる工夫が必要です。

髪に良い影響を与える食材

成分代表的な食品役割
タンパク質鶏肉・大豆髪の主材料
亜鉛牡蠣・レバー合成の促進
ビタミンB6バナナ・カツオ代謝の維持

ストレス耐性を高めるための休養方法

自律神経を整えるためには、脳を「オフ」にする時間を作ることが重要です。寝る直前までパソコンやスマートフォンの画面を見る習慣は、交感神経を刺激し続けてしまいます。

湯船に浸かって体温を上げたり、静かな音楽を聴いたりする時間を1日15分でも確保してください。こうしたリラックスタイムが血管を広げ、頭皮への血流を回復させるきっかけを作ります。

頭皮環境を清潔に保つ正しいケア

抜け毛が怖いからといって、髪を洗わないのは大きな間違いです。古くなった皮脂や汚れが毛穴に詰まると、新しく生えてくる毛の邪魔をしてしまいます。

ぬるま湯で予洗いを十分に行い、シャンプーはよく泡立ててから使いましょう。爪を立てず、指の腹で頭皮を優しく揉み洗うことで、余計な摩擦を防ぎつつ清潔さを保つことができます。

早期改善に向けた専門家への相談タイミング

自己判断で放置を続けると、一時的な症状が長引いたり、別の深刻な問題を見逃したりする懸念があります。

一般的に、休止期脱毛症は半年ほどで落ち着きを見せますが、それ以上続く場合は注意が必要です。適切な時期に医師の診察を受けることは、心の不安を解消する意味でも大きな価値があります。

症状が長引く場合の判断基準

髪が抜け始めてから半年以上経っても、新しい毛が生えてくる気配がない場合は専門外来を受診しましょう。慢性休止期脱毛症という、より根の深い問題に発展している可能性が考えられます。

また、髪全体のボリュームが以前の半分近くまで減ってしまった場合も、早急な対策が必要です。自分の力だけで解決しようとせず、医学的な視点から現状を分析してもらう勇気を持ちましょう。

受診時に伝えるべき自覚症状のポイント

診察を受ける際はいつから、どのような状況で抜け毛が始まったかを具体的に伝えてください。「仕事でプロジェクトが変わった時期」や「高熱を出した時期」など、心当たりのあるエピソードが重要です。

また、現在飲んでいる薬や、日常的に使用している育毛剤などの情報も整理しておきましょう。正確な情報があればあるほど、医師はより確かな診断を下すことができるようになります。

相談を検討すべき症状リスト

  • 半年以上抜け毛が止まらない
  • 頭皮に赤みや痒みがある
  • 地肌が局所的に露出している
  • 髪が細くなってきている

精神的なケアが髪に与える好影響

「髪が抜けるのが怖い」という不安そのものが、新たな負荷となって抜け毛を招く悪循環があります。専門家の「大丈夫、また生えてくる」という言葉が、何よりの特効薬になることも珍しくありません。

安心感を得ることで体内の自律神経は自然と安定し、血管が緩み始めます。こうした心の安らぎが髪を育てるための土壌を整え、再生への推移を加速させてくれるのです。

Q&A

一度抜けた髪の毛は以前と同じように生えてきますか?

はい、急性休止期脱毛症の場合、毛根そのものの機能が損なわれたわけではないため、原因を取り除けば再び生えてきます。

髪のサイクルが正常に戻るまでには数ヶ月の時間がかかりますが、焦らずに見守ることが大切です。多くの方は半年から1年ほどで、以前のようなボリュームを回復させています。

抜け毛の量があまりに多くてパニックになりそうです。どうすれば良いですか?

まずは深く呼吸をして、これが一時的な現象であることを思い出してください。今抜けているのは、数ヶ月前に役割を終えた毛が新しい毛に押し出されているプロセスです。

抜ける本数を数えるよりも、これからの髪のために良い栄養を摂り、早く寝ることに意識を向けましょう。

市販の育毛シャンプーやトニックは使ったほうが良いのでしょうか?

頭皮を清潔に保ち、血行を促進するという意味では、補助的な役割として使用するのは良いでしょう。

ただし、育毛剤だけでこの脱毛症が劇的に治るわけではありません。主役はあくまで「内側からの生活改善」であり、外側からのケアはそれをサポートするものだと考えてください。

特定のサプリメントを飲めば抜け毛は止まりますか?

特定の成分だけで抜け毛を完全に止めるのは難しいですが、不足しがちな栄養を補うのは有効です。特に亜鉛やビタミンB、パントテン酸などは、髪の合成を助けるために役立ちます。

ただし、サプリメントはあくまで食品ですので、基本となる食事を疎かにしないことが大前提となります。

美容室に行ってカットやパーマをしても問題ありませんか?

カットは問題ありませんが、パーマやカラーリングは頭皮に強い刺激を与えるため、症状が落ち着くまでは控えるのが無難です。

頭皮が敏感になっている時期は、できるだけ外部からの化学的な刺激を避けるようにしましょう。美容師さんに今の状況を相談し、負担の少ないヘアスタイルを提案してもらうのも一つの方法です。

参考文献

TOADER, Mihaela Paula, et al. Unraveling the psychological impact of telogen effluvium: Understanding hair loss beyond the scalp. Bulletin of Integrative Psychiatry, 2024, 1.

HADSHIEW, Ina M., et al. Burden of hair loss: stress and the underestimated psychosocial impact of telogen effluvium and androgenetic alopecia. Journal of investigative dermatology, 2004, 123.3: 455-457.

PHILLIPS, T. Grant; SLOMIANY, W. Paul; ALLISON, Robert. Hair loss: common causes and treatment. American family physician, 2017, 96.6: 371-378.

MALTA JR, Mauri; CORSO, German. Understanding the Association Between Mental Health and Hair Loss. Cureus, 2025, 17.5.

INDRASTITI, Retno, et al. The Relationship Between Stress Levels And The Incidence Of Hair Loss (Telogen Effluvium) In Beginning And Final Level Students Of Unimus Faculty Of Medicine. Innovative: Journal Of Social Science Research, 2024, 4.2: 7149-7158.

RUSSO, P. M., et al. HrQoL in hair loss‐affected patients with alopecia areata, androgenetic alopecia and telogen effluvium: the role of personality traits and psychosocial anxiety. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2019, 33.3: 608-611.

IZCI, Neslihan Fişek; AKSOY, Berna; AKTAŞ, Ezgi. Significant impact of telogen effluvium on quality of life, depression, anxiety and stress: a prospective case-control study. European Journal of Dermatology, 2025, 35.4: 300-306.

SPRINGER, Karyn; BROWN, Matthew; STULBERG, Daniel L. Common hair loss disorders. American family physician, 2003, 68.1: 93-102.

DAUNTON, Adam, et al. Chronic telogen effluvium: is it a distinct condition? A systematic review. American journal of clinical dermatology, 2023, 24.4: 513-520.

JAFFERANY, Mohammad; PATEL, Arsh. Trichopsychodermatology: the psychiatric and psychosocial aspects of hair disorders. Dermatologic therapy, 2020, 33.1: e13168.

BERGFELD, Wilma. Diffuse hair loss: its triggers and management. Cleve Clin J Med, 2009, 76.6: 361-370.

ストレス起因の薄毛に戻る

男性の薄毛の基礎知識・原因TOP

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

大木沙織のアバター 大木沙織 医療法人緑生会 大木皮ふ科クリニック副院長

名前:大木 沙織
大木皮ふ科クリニック 副院長
皮膚科医/内科専門医/公認心理師
略歴:順天堂大学医学部を卒業後に済生会川口総合病院、三井記念病院で研修。国際医療福祉大学病院を経て大木皮ふ科クリニック副院長へ就任。

所属:日本内科学会

目次