MENU

母方の祖父が薄毛なら注意|X染色体が運ぶAGAの遺伝法則と母系遺伝のリスク

母方の祖父が薄毛なら注意|X染色体が運ぶAGAの遺伝法則と母系遺伝のリスク

母方の祖父が薄毛である場合、あなた自身も将来的に薄毛になる可能性が高いという話を聞いたことがあるかもしれません。これは単なる迷信ではなく、遺伝学的な根拠に基づいた事実です。

AGA(男性型脱毛症)の発症には、母から子へと受け継がれるX染色体が重要な役割を果たしています。しかし、遺伝子を持っているからといって必ず発症するわけではありません。

遺伝の仕組みを正しく理解することで、漠然とした不安を明確な対策へと変えることができます。

目次

AGAと遺伝の深い関係性:なぜ薄毛は遺伝するのか

薄毛の悩みは個人の体質によるものだけでなく、親族から受け継ぐ遺伝情報が大きく関与しています。特にAGAにおいては、遺伝的要因が発症リスクを高める主要な決定因子です。

多くの男性が抱える「薄毛は遺伝するのか」という疑問に対し、科学は明確に「イエス」と答えます。しかし、それは「100%の確率で同じ運命をたどる」という意味ではありません。

遺伝はあくまで「なりやすさ」を決める設計図であり、そこにどのような環境要因が加わるかによって結果は変化します。まずは遺伝の全体像を把握し、なぜ血縁関係が重視されるのかを見ていきましょう。

遺伝要因が占める割合と環境要因の影響

AGAの発症において、遺伝が関与する割合は非常に高いと考えられています。統計的なデータや臨床の研究でも、薄毛の症状を持つ男性の多くに、同様の症状を持つ親族が存在することが確認されています。

これは、髪の毛の成長サイクルを短縮させてしまう特定の遺伝子が、親から子へと受け継がれているためです。しかし、遺伝子だけで全てが決まるわけではありません。

遺伝的に薄毛になりやすい体質を持っていても、実際にいつ発症するか、どの程度進行するかは変わります。生活習慣やストレス、頭皮環境といった後天的な要素が複雑に絡み合って決定するからです。

遺伝と環境の寄与度の違い

要因AGAへの影響度概要
遺伝的要因アンドロゲン受容体の感受性や還元酵素の活性力など体質の根本を決定します。変えることはできません。
環境的要因中〜小食事、睡眠、ストレス、喫煙などがホルモンバランスや血流に影響を与えます。改善が可能です。
加齢要因年齢とともに細胞の働きが衰え、発症リスクが自然と高まります。アンチエイジングケアで対策します。

つまり、遺伝という変えられない要素と、環境という変えられる要素の両方が存在することを知ることが、対策の第一歩となります。

男性の薄毛を引き起こすアンドロゲン受容体の役割

AGAの核心にあるのは、男性ホルモンの一種であるテストステロンの変化です。これがより強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換され、毛根にある「アンドロゲン受容体」と結合することで発症します。

この結合が起きると、毛母細胞に対して脱毛を促すシグナルが出されます。その結果、髪の成長期が極端に短くなってしまうのです。

ここで重要になるのが、この「アンドロゲン受容体の感受性(感度)」です。受容体の感度が高い人は、たとえ体内の男性ホルモン量が平均的であっても、DHTを敏感にキャッチしてしまいます。

その結果、薄毛のスイッチが入りやすくなります。この受容体の感度こそが、遺伝によって大きく左右される部分なのです。

家族性発症のリスクを知ることの重要性

自分の家系に薄毛の人が多い場合、自分もまたそのリスク因子を持っている可能性が高いと認識することが大切です。これを「家族性発症」と呼びます。

リスクを知ることは、決して悲観するためではありません。むしろ、リスクが高いことを早期に自覚できれば、症状が出る前や初期段階から適切な予防策を講じることが可能になります。

例えば、まだ髪がフサフサな20代のうちから頭皮ケアに気を配ったり、生活習慣を整えたりすることで、発症を遅らせることができます。遺伝的背景を理解することは、将来の自分の髪を守るための最大の武器になります。

母方の祖父が鍵を握る理由:X染色体の秘密

AGAに関連する「アンドロゲン受容体遺伝子」はX染色体上に存在するため、男性はこの遺伝子を必ず母親から受け継ぎます。そのため、母方の祖父の頭髪状況が、自身の薄毛リスクを占う重要な指標となるのです。

「おじいちゃんが薄毛だと自分もハゲる」という通説は、遺伝学的に見ても非常に理にかなっています。ただし、父方の祖父か母方の祖父かで、その意味合いは大きく異なります。

ここでは、なぜ母方の祖父が特に重要視されるのか、性染色体の伝わり方のルールに沿って解説します。

性染色体の仕組みと遺伝の経路

人間の性別を決定するのは性染色体です。男性は「XY」、女性は「XX」という組み合わせを持っています。子供が生まれるとき、父親からはXかYのどちらか一方、母親からはX染色体の一つを受け継ぎます。

もし子供が男の子(XY)である場合、Y染色体は必ず父親から受け継ぎます。そして、X染色体は必ず母親から受け継ぎます。

前述の通り、薄毛のリスクを左右する「アンドロゲン受容体遺伝子」はX染色体に乗っています。つまり、男性にとって薄毛感受性の遺伝子は、父親からではなく、母親から受け継ぐというルールが存在するのです。

X染色体の伝達ルート

世代性染色体X染色体の由来
母方の祖父XY祖父自身の母親からXを受け継いでいます
母親XX片方のXは母方の祖父から、もう片方のXは母方の祖母から受け継ぎます
あなた(男性)XY唯一のX染色体は必ず母親から受け継ぎます

母系遺伝におけるX染色体の伝わり方

あなたの母親は「XX」という染色体を持っています。この2つのXのうち、1つはあなたの母方の祖母から、そしてもう1つは「母方の祖父」から受け継いだものです。

もし母方の祖父がAGAであった場合、彼のX染色体にはAGAになりやすい遺伝情報が含まれている可能性が高いと言えます。母親はその「AGAになりやすいX染色体」を祖父から確実に受け継いでいます。

そして、母親があなたを産む際、2本あるX染色体のうち、どちらをあなたに渡したかが運命の分かれ道となります。

単純計算で50%の確率で、あなたは母方の祖父由来の「薄毛になりやすいX染色体」を受け継ぐことになります。

隔世遺伝と呼ばれる現象の正体

「両親は髪がフサフサなのに、自分だけ薄毛になった」というケースがよくあります。これを一般的に「隔世遺伝」と呼びますが、この現象もX染色体の動きで説明がつきます。

母親自身は女性であるため、体内の男性ホルモン量が少なく、たとえAGAのリスク遺伝子(感度の高い受容体遺伝子)を持っていたとしても、自身の髪が薄くなることは稀です。

母親はいわゆる「キャリア(保因者)」として、その遺伝子を隠し持ったまま生活します。そして、その遺伝子が息子であるあなたに受け継がれたとき、初めて形質として現れます。

男性ホルモンの影響を強く受ける男性の体内で、薄毛のリスクが表面化するのです。これが、一世代飛ばして祖父の形質が現れたように見える理由です。

アンドロゲン受容体の感度とCAGリピート

アンドロゲン受容体遺伝子の中にある「CAG」という塩基配列のリピート回数が少ないほど受容体の感度が高くなり、AGAを発症しやすくなることが分かっています。このリピート回数が遺伝的な体質を決定づけます。

X染色体にある遺伝子が薄毛に関わることは分かりましたが、具体的に遺伝子の「何」が違うのでしょうか。それは遺伝子の長さ、具体的には特定の塩基配列のリピート回数に違いがあります。

アンドロゲン受容体遺伝子の場所と機能

アンドロゲン受容体(AR)遺伝子は、X染色体の特定の位置(Xq11-12)に存在しています。この遺伝子は、細胞内で男性ホルモンを受け取るための「受け皿」を作る設計図の役割を果たしています。

この設計図に基づいて作られた受容体は、毛乳頭細胞の中で待ち構えています。そこにDHT(ジヒドロテストステロン)がやってきて結合すると、受容体は活性化し、TGF-βなどの脱毛因子を放出させます。

この一連の反応の強さを決めるのが、受容体の「感度」です。

CAGリピート数と薄毛発症リスクの相関

アンドロゲン受容体遺伝子には、シトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)という3つの塩基が繰り返される「CAGリピート」という領域があります。興味深いことに、この繰り返しの回数(長さ)には個人差があります。

研究により、このCAGリピートの回数が「少ない」ほど、受容体の感度が高くなることが分かっています。感度が高いということは、少量のDHTでも強力に反応し、脱毛シグナルを強く出してしまうことを意味します。

逆に、リピート回数が多ければ感度は低く、薄毛になりにくい傾向があります。

CAGリピート数によるリスク分類の目安

CAGリピート数受容体の感度AGA発症リスク
少ない(短い)高い高リスク(早期発症の可能性大)
標準的中程度中リスク(環境要因の影響を受けやすい)
多い(長い)低い低リスク(発症しにくい体質)

遺伝子検査でわかることと限界

現在、クリニックなどで提供されている「AGA遺伝子検査」の多くは、このCAGリピート数を測定するものです。血液や口内の粘膜を採取するだけで、自分が「遺伝的に薄毛になりやすい体質かどうか」を数値で知ることができます。

ただし、注意が必要なのは、この検査結果が「将来のハゲ」を確定する予言ではないということです。あくまで「受容体の感度が高い」というリスク要因を持っているかどうかが分かるだけです。

リスクが高くても、適切なケアで発症を抑えている人もいれば、リスクが低くても生活習慣の乱れで薄毛になる人もいます。検査結果は、対策の強度を決めるための判断材料として活用することが大切です。

母方だけではない?父方から受け継ぐ薄毛リスク

薄毛のリスクは母系遺伝のX染色体だけでなく、父方から受け継ぐ要因も複合的に影響します。特に常染色体上にある5αリダクターゼの活性に関わる遺伝子は、両親双方の家系を確認することが重要です。

「母方の祖父がフサフサだから安心だ」と考えるのは早計です。AGAの発症には、男性ホルモンを受け取る「受容体」だけでなく、男性ホルモンをDHTに変換する「酵素」の働きも深く関わっているからです。

この酵素の働きに関する遺伝子は、父親からも受け継がれます。

常染色体上の遺伝子と還元酵素の影響

AGAのもう一つの主役である「5αリダクターゼ」という還元酵素はI型とII型が存在し、それぞれの遺伝子は常染色体に位置しています。常染色体上の遺伝情報は、父母の両方からランダムに受け継がれます。

特に注意が必要なのは、この酵素活性の高さが「優性遺伝」する傾向があるという説です。つまり、両親のどちらか一方でも「酵素の働きが強い(薄毛になりやすい)」遺伝子を持っていれば、子にその形質が現れやすくなります。

母方の影響(受容体感度)と父方の影響(酵素活性)の両方が揃ってしまった場合、AGAの発症リスクは極めて高くなります。

  • 5αリダクターゼの活性度
    テストステロンを悪玉脱毛ホルモンであるDHTに変換する酵素「5αリダクターゼ」の働きが強いほど、DHTが大量に生成される。この活性度の高さは優性遺伝すると考えられている。
  • 常染色体優性遺伝の性質
    5αリダクターゼに関する遺伝子は性染色体ではなく、常染色体(第2染色体や第5染色体など)に存在する。つまり、性別に関係なく、父と母のどちらからでも受け継ぐ可能性がある。
  • 父方の祖父や父の影響
    もし父方の家系に薄毛の人が多い場合、5αリダクターゼの活性が高い遺伝子を父親から受け継いでいる可能性がある。たとえ母方の遺伝的リスクが低くてもDHTが大量に作られる体質であれば、AGAを発症するリスクは十分にある。

父と母の両方から遺伝する可能性

遺伝の組み合わせは複雑です。「母方からは高感度の受容体を」「父方からは高活性の酵素を」受け継ぐ最悪のパターンもあれば、どちらか一方だけを受け継ぐパターンもあります。

父方の家系に薄毛が多い場合、「DHTをたくさん作る体質」を受け継いでいる可能性を疑うべきです。一方、母方の家系に薄毛が多い場合、「DHTに敏感に反応する体質」を受け継いでいる可能性を疑います。

両方のリスク要因を持っている場合、若年層からのAGA発症(若ハゲ)のリスクが高まると言われています。

複合的な遺伝要因で決まる発症確率

近年、大規模なゲノム解析研究により、AGAに関与する遺伝子領域はX染色体や5αリダクターゼ関連遺伝子以外にも、数多く存在することが分かってきました。頭皮の硬さや血管の形成、毛周期の調節に関わる遺伝子なども影響している可能性があります。

つまり、AGAは単一の遺伝子病ではなく、多くの遺伝子が関与する「多因子遺伝疾患」です。母方の祖父の状況は強力なヒントにはなりますが、それ一つで全てが決まるわけではありません。

親族全体の傾向を俯瞰して見ることが、より正確なリスク評価につながります。

遺伝だけでは決まらない発症のタイミング

遺伝的素因を持っていたとしても、それが実際に発現するかどうか、またいつ発症するかは環境要因が大きく影響します。食事、睡眠、ストレスといった日々の生活習慣を整えることで、発症を遅らせることが可能です。

「遺伝だから諦めるしかない」と考えるのは間違いです。遺伝子はあくまで「火種」であり、それに火をつけるのは環境要因です。火種を持っていても、火をつけなければ爆発(発症)は防げる、あるいは先延ばしにすることができます。

これを「エピジェネティクス(後天的な遺伝子制御)」の視点からも説明できます。

生活習慣が遺伝子スイッチを押す可能性

不健康な生活習慣は、AGAの進行を早めるアクセルの役割を果たします。例えば、偏った食事や運動不足は、ホルモンバランスを乱し、頭皮への血流を悪化させます。

その影響で、毛根が必要とする栄養が届かなくなります。結果として、遺伝的な弱点を持っている毛根が真っ先にダメージを受けてしまうのです。

逆に、健康的な生活を送ることは、発症のブレーキになります。遺伝的リスクが高い人ほど、生活習慣の改善による恩恵を強く受けることができます。日々の積み重ねが、5年後、10年後の髪の量を左右するのです。

髪に悪影響を与える生活習慣ワースト3

習慣頭皮・毛髪への悪影響改善のポイント
慢性的な睡眠不足成長ホルモンの分泌が低下し、毛母細胞の修復や分裂が滞ります就寝前のスマホを控え、質の高い睡眠時間を6時間以上確保します
高脂質・高糖質の食事皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境が悪化して炎症の原因になります揚げ物やスナック菓子を控え、タンパク質とビタミンミネラルを摂取します
過度な飲酒・喫煙血管が収縮し、髪を作るための栄養素が頭皮まで届かなくなります喫煙は百害あって一利なし、飲酒は適量を守り、休肝日を作ります

ストレスや睡眠不足が頭皮環境に与える影響

ストレスを感じると自律神経が乱れ、交感神経が優位になります。これにより血管が収縮し、頭皮への血流が阻害されます。

さらに、ストレスは亜鉛などのミネラルを大量に消費してしまうため、髪の合成に必要な栄養素が不足する事態を招きます。

また、睡眠中は髪が成長するゴールデンタイムです。睡眠不足が続くと毛髪の成長サイクルが乱れ、成長期が短縮してしまいます。遺伝的リスクがある人はストレス管理と睡眠確保を徹底することが、最も基本的かつ重要な対策となります。

食事とホルモンバランスの密接な関係

私たちが食べたものが、髪の原料になります。髪の主成分であるケラチンを合成するには、良質なタンパク質が必要です。また、亜鉛はケラチンの合成を助けるだけでなく、5αリダクターゼの働きを抑制する効果も期待されています。

大豆製品に含まれるイソフラボンは、女性ホルモンに似た働きをし、過剰な男性ホルモンの影響を和らげる可能性があります。

バランスの良い食事を心がけることは、体全体の健康だけでなく、AGAのリスクマネジメントにも直結しています。

自分がAGAを発症する確率を予測する方法

親族の頭髪状況を詳細に確認することに加え、自分自身の抜け毛の質や髪の太さの変化を客観的に観察することが重要です。これにより、AGAの発症リスクや初期段階の兆候を高い精度で予測し、早期発見につなげることができます。

将来が不安な場合、まずは現状を冷静に分析することから始めます。遺伝子検査キットを使うのも一つの手ですが、日々の観察でも多くのことが分かります。

AGAは進行性であるため、手遅れになる前にサインに気づくことが何よりも大切です。

親族の薄毛状況から見るリスク診断

親族の中に薄毛の人が何人いるか、そして彼らが「いつ頃から」薄くなり始めたかを聞いてみることは非常に参考になります。もし母方の祖父も、父方の祖父も、そして父親も薄毛である場合、サラブレッド級の高リスク群と言えます。

逆に、親族に誰も薄毛がいないのに自分だけ気になり始めた場合は、遺伝以外の要因を疑う余地が出てきます。生活習慣やストレス、あるいは別の脱毛症の可能性も考慮します。

家系図を思い浮かべながら、自分の立ち位置を客観視することが大切です。

自身の毛髪の変化をチェックするポイント

AGAの進行は非常にゆっくりであるため、自分では気づきにくいものです。「昔に比べて髪のセットが決まらなくなった」「雨に濡れると地肌が目立つようになった」「髪にコシがなくなり、ペタンとする」といった感覚的な変化は、重要な初期サインです。

特に注目すべきは「軟毛化」です。太く長く育つはずの髪が、細く短いまま抜け落ちてしまう現象です。

枕元や排水溝に落ちている毛を観察し、以前よりも細い毛が混じっていないかを確認する習慣をつけることをお勧めします。

  • 母方の祖父・曾祖父のチェック
    最も影響力が強いライン。彼らが若くして薄毛になっていた場合、自身のリスクは相当高いと見積もるべき。
  • 抜け毛の状態の確認
    ただの本数ではなく「質」を見る。短くて細い抜け毛(産毛のような毛)が増えている場合、毛周期が短くなっている証拠であり、AGAの初期症状の可能性が高い。
  • 生え際とつむじの変化
    額の生え際が後退していないか、つむじ周辺の地肌が透けて見えやすくなっていないか、定期的に鏡や写真で記録し比較。
  • 頭皮の硬さと皮脂量
    頭皮が硬く動かない、あるいは夕方になると異常にベタつく場合、頭皮環境が悪化しており、脱毛リスクが高まっているサイン。

早期発見が治療効果を高める理由

AGA治療において鉄則となるのが「早期発見・早期対策」です。毛根には寿命があり、ヘアサイクルが回る回数には限りがあると言われています。

毛根が完全に死滅し、頭皮が皮膚化してしまってからでは、どのような治療を行っても髪を再生させることは困難になります。

逆に、まだ産毛が残っている段階や、薄くなり始めた初期段階であれば、改善の余地は十分にあります。薬やケアによってヘアサイクルを正常に戻し、劇的に改善できる可能性が高まります。

遺伝的リスクが高いと自覚している人ほど、異変を感じたらすぐに動くスピード感が求められます。

遺伝的リスクが高い人が取るべき具体的な対策

遺伝的リスクが高いと、判断された場合でも打つ手はあります。

専門クリニックでの早期受診や科学的根拠のある治療薬の使用、そして日々の適切なケアを組み合わせることで、AGAの発症を予防したり進行を食い止めたりすることは十分に可能です。

「遺伝だからどうしようもない」と諦めていたのは昔の話です。現在は医学が進歩し、AGAは「コントロール可能な疾患」になりつつあります。リスクが高い人こそ、正しい知識を持って先手を打つことが重要です。

専門機関での正確な診断の価値

自己判断は危険です。薄毛の原因がAGAではなく、円形脱毛症や脂漏性皮膚炎、甲状腺疾患などである可能性もあります。

まずは皮膚科やAGA専門クリニックを受診し、マイクロスコープによる頭皮診断や血液検査を受けることを強くお勧めします。専門医の診断を受けることで、自分の頭皮の状態や進行レベルを客観的に把握できます。

今の自分に本当に必要な対策が何なのかが明確になります。無駄な自己流ケアにお金と時間を費やす前に、プロの目を入れることが最短ルートです。

リスクレベル別・推奨される対策フェーズ

フェーズ対象となる状態推奨される対策アクション
予防期まだ見た目に変化はないが、遺伝的リスクが高い生活習慣の改善、育毛シャンプーの使用、頭皮マッサージの習慣化
初期抜け毛が増え、髪のハリ・コシが低下してきたクリニック受診、外用薬(ミノキシジル等)の検討、サプリメントの活用
進行期地肌が透け、明らかな薄毛が認められる内服薬(フィナステリド等)によるホルモン抑制、専門的なメディカル発毛治療

科学的根拠に基づいた予防アプローチ

医学的に効果が認められている成分を取り入れることが大切です。例えば、フィナステリドやデュタステリドといった成分は5αリダクターゼの働きを阻害し、DHTの産生を抑える効果があります。

また、ミノキシジルは血流を改善し、毛母細胞を活性化させます。これらの薬剤はかつては治療薬としてのみ認識されていましたが、最近では低用量で予防的に使用するケースも増えています。

ただし、副作用のリスクもあるため、必ず医師の指導の下で使用することが必要です。

継続的なケアが将来の髪を守る

AGA対策で最も難しいのが「継続」です。治療やケアを始めても、すぐに効果が出るわけではありません。ヘアサイクルの関係上、効果を実感するまでには最低でも半年から1年はかかります。

遺伝的リスクが高い人は、一時的な対策ではなく、ヘアケアを生活の一部として一生続けていく覚悟が必要です。歯磨きやお風呂と同じように習慣化しましょう。

今日行ったケアが、数年後の自分への投資になると信じ、根気強く向き合っていくことが、AGAとの戦いに勝つ唯一の方法です。

Q&A

母方の祖父がハゲていなければ絶対に安心ですか?

残念ながら、絶対に安心とは言い切れません。確かに母方の祖父の影響は大きいですが、記事内で解説した通り、父方から5αリダクターゼの活性遺伝子を受け継ぐ可能性があります。

また、母方の祖母の家系に薄毛遺伝子があり、それを母親経由で受け継いでいるケースもあります。母方の祖父がフサフサであっても、油断せず生活習慣を整えることが大切です。

母方の祖父が薄毛の場合、予防を始めるべき年齢は?

思春期以降であれば、早ければ早いほど良いと言えます。AGAは男性ホルモンの分泌が活発になる思春期以降に発症リスクが生じます。

高校生や大学生であっても、家系的なリスクが高い場合は睡眠不足を避ける、頭皮を清潔に保つといった基本的なケアから意識し始めることが推奨されます。本格的な薬物治療は成人してから医師と相談して決定します。

遺伝子検査の結果が悪かったら、必ずハゲますか?

必ずハゲるわけではありません。遺伝子検査で分かるのはあくまで「発症リスクの高さ」や「体質的な傾向」です。

リスクが高くても、適切な生活習慣や早期のケアによって発症を遅らせたり、症状を軽度に留めたりすることは十分に可能です。検査結果を悲観するのではなく、対策のモチベーションとして活用してください。

母親自身が薄毛の場合は、息子への影響はより強いですか?

その可能性は非常に高いと考えられます。女性である母親が薄毛(FAGAなど)を発症している場合、かなり強力な脱毛遺伝子を持っている可能性が高いです。

あるいは、ホルモンバランスに関わる体質的な要因を強く持っていることも考えられます。母親からX染色体を確実に受け継ぐ息子にとって、警戒レベルを最大に上げるべきサインと言えます。

参考文献

YIP, Leona; RUFAUT, Nick; SINCLAIR, Rod. Role of genetics and sex steroid hormones in male androgenetic alopecia and female pattern hair loss: an update of what we now know. Australasian Journal of Dermatology, 2011, 52.2: 81-88.

MARCIŃSKA, Magdalena, et al. Evaluation of DNA variants associated with androgenetic alopecia and their potential to predict male pattern baldness. PloS one, 2015, 10.5: e0127852.

DOBYNS, William B., et al. Inheritance of most X‐linked traits is not dominant or recessive, just X‐linked. American journal of medical genetics Part A, 2004, 129.2: 136-143.

CARUANA, Rebecca; DIACONO, Sheriseane; AL-TUHAFY10, Harir Radhwan Abdulmajeed. Patterns of inheritance. JT Publishing, 2023, 32.

HILLMER, Axel M., et al. Genetic variation in the human androgen receptor gene is the major determinant of common early-onset androgenetic alopecia. The American Journal of Human Genetics, 2005, 77.1: 140-148.

REMSBERG, Karen Elizabeth. Determining the prevalence of early male pattern baldness and risk factors for coronary heart disease among brothers of women with polycystic ovary syndrome. University of Pittsburgh, 2001.

JANIVARA, Rohini, et al. Uncovering the genetic architecture and evolutionary roots of androgenetic alopecia in African men. Human Genetics and Genomics Advances, 2025, 6.3.

CHUMLEA, W. Cameron, et al. Family history and risk of hair loss. Dermatology, 2004, 209.1: 33-39.

ANASTASSAKIS, Konstantinos. Hormonal and genetic etiology of male androgenetic alopecia. In: Androgenetic Alopecia From A to Z: Vol. 1 Basic Science, Diagnosis, Etiology, and Related Disorders. Cham: Springer International Publishing, 2022. p. 135-180.

KÖNIG, A., et al. An X-linked gene involved in androgenetic alopecia: a lesson to be learned from adrenoleukodystrophy. Dermatology, 2000, 200.3: 213-218.

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次