休止期脱毛症とAGAの違い|毛周期の異常パターンで見分ける薄毛の原因

鏡を見るたびに以前とは違う髪のボリュームや抜け毛の多さに不安を感じることは、男性にとって深刻な悩みです。
薄毛の原因は一つではありません。「休止期脱毛症」と「AGA(男性型脱毛症)」は、症状が似ていても原因や対処法が根本的に異なります。
この違いを正確に理解することは、適切な対策を選び取り、将来の髪を守るための第一歩として極めて重要です。
本記事では、両者の決定的な違いを毛周期の視点から紐解き、それぞれの特徴や見分け方を専門的な知見を交えて詳しく解説します。誤った自己判断を避け、確かな知識を持ってご自身の髪と向き合うための指針を提供します。
休止期脱毛症とAGAの基本的な定義と特徴
薄毛の悩みを解決する第一歩は、ご自身の状態を正しく認識することにあります。休止期脱毛症とAGAは、抜け毛が増える点は共通していても、その生理的背景や発症原因は全く異なります。
両者の定義と特徴を対比させ、客観的に把握するための基礎知識を解説します。
休止期脱毛症とはどのような状態か
休止期脱毛症は、ヘアサイクル(毛周期)における「休止期」にある髪の割合が、何らかの原因によって急激に増加してしまう状態を指します。
通常、頭髪全体の約10%程度が休止期にあり、残りの約85〜90%は成長期にあるのが健康的です。しかし、このバランスが崩れ、休止期の髪が20%や30%といった異常な割合に達することがあります。
この状態に陥ると、シャンプーやブラッシングといった日常の些細な刺激で、驚くほど多くの髪が抜け落ちます。特徴的なのは、特定の部位だけでなく頭髪全体から万遍なく抜ける傾向が強い点です。
身体的、あるいは精神的な大きな負荷がかかった数ヶ月後に突発的に発生することが多く、原因を取り除くことで自然回復するケースも見られます。
つまり、これは髪を作る工場が一時的に「操業停止」を選択しているような状態であり、体が危機的状況に対応するために髪へのエネルギー供給を後回しにした結果とも言えます。
AGA(男性型脱毛症)の定義と進行
AGA(Androgenetic Alopecia)は、男性ホルモンと遺伝的要素が密接に関与する進行性の脱毛症です。
こちらは休止期脱毛症のように突発的に全体が抜けるのではなく、特定の部位が時間をかけて徐々に軟毛化し、薄くなっていくのが特徴です。具体的には、額の生え際や頭頂部の髪が影響を受けます。
AGAの本質は、ヘアサイクルにおける「成長期」が極端に短くなることにあります。髪が太く長く育つ前に成長が止まり、抜け落ちてしまうのです。
その結果、細く短い髪ばかりが増えて地肌が透けて見えるようになります。一度発症すると自然に治癒することは稀であり、医学的な介入を行わない限り、ゆっくりと、しかし確実に進行し続けます。
これは一時的な「停止」ではなく、髪を作る工場の「生産能力」そのものが徐々に低下していくような現象と捉えることができます。
両者の決定的な違いを比較
両者を見分ける上で最も重要なのは、「進行のスピード」と「影響を受ける範囲」、そして「原因の所在」です。休止期脱毛症は急激かつ全体的に起こり、原因は生活環境や体調変化などの外部・内部環境に多く求められます。
対してAGAは緩やかかつ局所的に始まり、原因は遺伝やホルモンバランスという体質的な要素が強く影響します。両者の特徴的な違いを整理しました。
両者の特徴比較のまとめ
| 比較項目 | 休止期脱毛症 | AGA(男性型脱毛症) |
|---|---|---|
| 発症の仕方 | 急激に抜け毛が増える | 徐々に薄毛が進行する |
| 脱毛の範囲 | 頭髪全体が均一に薄くなる傾向 | 生え際や頭頂部など局所的 |
| 主な原因 | ストレス、栄養不足、病気など | 遺伝、男性ホルモンの影響 |
| 自然回復 | 原因解消により回復の可能性あり | 自然治癒は難しく進行する |
| 毛根の状態 | こん棒状で白っぽいものが多い | 細く、萎縮している場合がある |
これらの違いを理解することは、対策を立てる上での羅針盤となります。例えば、AGAに対して生活習慣の改善だけで挑んでも限界があります。
逆に、一時的な休止期脱毛症に対して過度な薬物療法を行う必要はないかもしれません。正しい敵を知ることが、勝利への近道となります。
毛周期(ヘアサイクル)の異常パターンの違い
薄毛の問題は毛周期(ヘアサイクル)の異常によって発生しますが、休止期脱毛症とAGAではその「異常の生じ方」が異なります。ト
ラブルがサイクルのどの段階で起きているのかを知ることは、根本原因の理解に不可欠です。それぞれの異常パターンを詳しく見ていきましょう。
正常なヘアサイクルの流れ
健康な頭髪におけるヘアサイクルは、大きく分けて「成長期」「退行期」「休止期」の3つのフェーズで構成されています。
最も長い期間を占めるのが「成長期」で、通常2年から6年程度続きます。この期間中、毛母細胞は活発に分裂を繰り返し、髪は太く長く成長します。
その後、毛母細胞の分裂が低下し、毛包が縮小し始める「退行期」へと移行します。この期間は2週間程度と非常に短いものです。
最後に、毛根が活動を停止し、古い髪が抜け落ちるのを待つ「休止期」が3〜4ヶ月ほど続きます。休止期が終わると、再び新しい髪が作られ始めます。
古い髪を押し出す形で新たな成長期が始まるのです。この絶妙なバランスによって、私たちは髪の総量を一定に保つことができています。
休止期脱毛症におけるサイクルの短縮
休止期脱毛症においては、成長期にある髪が本来の寿命を全うする前に急激に「休止期」へと移行してしまう現象が起きます。
通常であれば数年は成長し続けるはずの髪が、何らかのショックや身体的な変化をきっかけに、成長を強制終了させてしまうのです。
その結果、本来は全体の10%程度であるはずの休止期の髪の割合が増加します。休止期に入った髪は、毛根が浅くなり、少しの力で抜け落ちやすくなります。
つまり、成長サイクルの期間そのものが短縮されるというよりは、「成長期から休止期への移行ラッシュ」が起きている状態と言えます。
新しい髪が生えてくる準備が整う前に大量の髪が抜けるため、一時的にボリュームが激減したように感じられます。しかし、毛包自体が死滅しているわけではないため、再び成長期に戻るポテンシャルは残されています。
AGAにおける成長期の短縮
一方、AGAにおけるヘアサイクルの異常は、「成長期そのものが極端に短くなる」ことにあります。男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)が毛乳頭細胞にある受容体と結合することで、脱毛シグナルが出されます。
このシグナルを受け取った毛根は、まだ成長途中であるにもかかわらず、成長を止めて退行期へと移行してしまいます。その結果、髪は十分に太く長く育つ時間を与えられません。
数ヶ月から1年程度で抜けてしまうようになり、生えてくる髪も徐々に細く頼りないもの(軟毛)へと変化していきます。これを「ミニチュア化」と呼びます。
休止期脱毛症との大きな違いは、サイクルが回るたびに毛包自体が徐々に小さくなっていく点です。放置すると最終的にはうぶ毛のような髪しか生えなくなり、地肌が露出してしまいます。
抜け毛の見た目と特徴で見分けるポイント
日々の生活の中で、排水溝や枕元に落ちている抜け毛を観察することは、ご自身の頭皮環境を知るための貴重な手がかりとなります。
抜け毛の形状や量には、それがなぜ抜けたのかという「メッセージ」が残されています。何気なく捨てていた抜け毛に目を向けることが、早期発見の鍵となります。
毛根の形状と色を確認する
抜け毛の根元、つまり毛根部分を虫眼鏡などでよく観察してみてください。健康な自然脱毛や休止期脱毛症による抜け毛の多くは、毛根がマッチ棒のように丸く膨らんでいます。
色は白っぽくなっており、これは「こん棒毛」と呼ばれます。髪が成長を完全に終え、自然に抜け落ちる準備が整った状態で抜けた証拠です。
休止期脱毛症の場合、この正常な形状の抜け毛が大量に発生するのが特徴です。一方で、AGAやその他の異常脱毛の場合、毛根の形状がいびつであったり、膨らみがなく先細りしていたりします。
また、毛根に黒い色素が残っている場合や、べっとりとした付着物がある場合も注意が必要です。成長の途中で無理に抜けたか、頭皮環境の悪化を示唆しています。
抜け落ちた髪の太さと長さ
抜けた髪の太さや長さも重要な判断材料です。休止期脱毛症の場合、抜ける髪の多くは、ある程度の太さと長さを持った「成長した髪」です。今まで元気に育っていた髪が、急な指令によって一斉に抜けるため、しっかりとした髪が抜ける傾向にあります。
対照的に、AGAの兆候がある場合、抜け毛の中に「細くて短い髪」が混じることが多くなります。成長期が短縮され、髪が十分に育つ前に抜けてしまっているからです。
ご自身の髪の平均的な太さと比べて、明らかに細い抜け毛や、数センチしか伸びていない短い抜け毛が増えてきたら要注意です。
一日に抜ける本数の目安
私たちは誰でも、毎日ある程度の髪が抜けています。これを生理的脱毛と呼びますが、その本数が異常かどうかの判断基準を持つことは安心材料になります。
通常であれば、季節の変わり目などを除き、1日あたり50本から100本程度の抜け毛は正常の範囲内とされています。
しかし、シャンプーのたびに排水溝が詰まるほど抜ける、手櫛を通すだけでパラパラと落ちるといった場合は注意が必要です。以下のような兆候がないか確認してください。
注意すべき抜け毛のチェックリスト
- シャンプー時の抜け毛が以前の倍以上に増えたと感じる
- 朝起きた時、枕に付着している抜け毛の数が明らかに多い
- 抜けた髪の多くが、うぶ毛のように細く短い
- 毛根部分に膨らみがなく、ヒョロリとしている
- 特定の季節に関係なく、長期間にわたり抜け毛が多い
- 頭皮に痒みや赤みを伴いながら抜け毛が増えている
これらのリストに複数該当する場合は、単なる季節性の抜け毛ではない可能性が高いでしょう。
発症原因とライフスタイルの関連性
休止期脱毛症とAGAは、それぞれ異なる引き金を持っていますが、現代人のライフスタイルにおいてはこれらが複雑に絡み合っていることも珍しくありません。
それぞれの発症原因を掘り下げ、日々の生活習慣が髪にどのような影響を与えているのか解説します。原因を知ることは、すなわち解決への糸口を見つけることです。
ストレスや生活習慣による休止期脱毛症
休止期脱毛症の最大の誘因の一つは、身体的・精神的な「強いストレス」です。高熱を伴う病気、大きな手術、急激なダイエットによる栄養失調などがこれに該当します。
また、仕事や人間関係による過度な精神的負荷も大きな要因です。体は生命維持を最優先するため、強いストレスを感じると、直接生命に関わらない髪へのエネルギー供給を制限します。
その結果、多くの髪が強制的に休止期へと移行してしまうのです。慢性的な睡眠不足や偏った食生活、甲状腺機能の異常などの内科的疾患も原因となり得ます。
このタイプの脱毛症は原因となった出来事から2〜3ヶ月遅れて発生することが多いため、数ヶ月前のライフスタイルを振り返ることが原因特定には重要です。
遺伝とホルモンバランスによるAGA
AGAの原因はより内在的で、遺伝的背景と男性ホルモンの働きが主役となります。特に重要なのが、男性ホルモン「テストステロン」から生成される「DHT(ジヒドロテストステロン)」の存在です。
このDHTが、毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合することで脱毛因子が増加し、成長期を短縮させてしまいます。
この一連の流れの強さは、遺伝によって大きく左右されます。「5αリダクターゼの活性度」や「男性ホルモン受容体の感受性」は親から子へと受け継がれる傾向があります。
そのため、母方の祖父や父方の親族に薄毛の人がいる場合、AGAを発症するリスクが高くなると考えられています。
主な原因因子とその分類
| 分類 | 具体的要因 | 影響の現れ方 |
|---|---|---|
| 外部環境要因 | 過度なストレス、睡眠不足、急激なダイエット | 数ヶ月後に突発的に抜け毛が増加(休止期脱毛症) |
| 内部体質要因 | 遺伝、男性ホルモン(DHT)の作用 | 特定の部位から徐々に薄毛が進行(AGA) |
| 内科的要因 | 甲状腺疾患、貧血、薬剤の副作用 | 全身症状を伴い全体的に脱毛(休止期脱毛症) |
| 頭皮環境要因 | 皮脂の過剰分泌、炎症、血行不良 | 毛根の成長阻害、抜け毛の誘発(両者に悪影響) |
併発する可能性と見極め方
厄介なことに、これらは「どちらか一方しか発症しない」というルールはありません。AGAの素因を持つ人が、強いストレスを受けて休止期脱毛症を併発することもあります。
この場合、AGAによる緩やかな進行の上に、休止期脱毛症による急激な抜け毛が重なるため、短期間で一気に薄毛が進んだように見えます。
見極め方としては、やはり抜け毛の質と薄くなり方を総合的に判断します。生え際が後退しつつ、全体的にもボリュームが減っている場合は併発の可能性があります。
このような複合的なケースでは、自己判断での対処がさらに難しくなります。原因が複数ある場合、それぞれの原因に対して適切なアプローチを同時に行う必要があるからです。
進行パターンと薄毛になる部位の差異
鏡を見たとき、どの部分の髪が薄くなっていると感じますか?薄毛の進行パターンと影響を受ける部位には、それぞれの脱毛症において明確な傾向があります。
この「薄くなり方の地図」を読み解くことで、原因を推測する精度を高めることが可能です。全体的か部分的か、その違いに注目します。
全体的にボリュームが減る休止期脱毛症
休止期脱毛症の最大の特徴は「びまん性」、つまり全体的に薄くなることです。特定の場所だけが集中的にハゲるのではなく、頭部全体の髪の密度が低下します。
「最近、髪の分け目が目立つようになった」「ポニーテールにした時の束が細くなった」といった感覚を覚えることが多いでしょう。
これは、ヘアサイクルの異常が頭皮全体の毛包に対して無差別に発生しているためです。生え際の後退などは目立たないまま、全体的に地肌が透けて見えるようになります。
特に頭頂部から側頭部、後頭部に至るまで、広範囲にわたって均一にボリュームダウンするのが典型的なパターンです。
生え際や頭頂部から進行するAGA
対してAGAは、非常に特徴的な進行パターンを持っています。額の生え際(M字型)、あるいは頭頂部(O字型)、またはその両方から進行が始まります。
興味深いことに、側頭部や後頭部の髪はAGAが進行しても最後まで残ることが多いです。これは、AGAの原因となる5αリダクターゼや男性ホルモン受容体が、前頭部や頭頂部の毛乳頭に多く分布しているためです。
側頭部や後頭部にはこれらの分布が少ないため、ホルモンへの感受性が異なります。その結果、影響を受ける場所と受けない場所がはっきりと分かれるのです。
進行パターン比較表
| 特徴 | 休止期脱毛症のパターン | AGAのパターン |
|---|---|---|
| 進行エリア | 頭部全体(びまん性) | 前頭部(生え際)および頭頂部 |
| 側頭部・後頭部 | ここも含めて薄くなることが多い | 影響を受けにくく、髪が残ることが多い |
| 生え際の後退 | あまり目立たない | M字型などに後退することが典型的 |
| 進行の速度 | 比較的急速に変化を感じる | 数年単位でゆっくりと進行する |
局所的か全体的かの判断基準
ご自身の状態を判断する際は合わせ鏡を使ったり、スマートフォンのカメラで頭頂部や後頭部を撮影したりして確認することをお勧めします。
判断の際は、「境界線」があるかどうかもポイントです。薄い部分と濃い部分の境界がはっきりしており、特定のパターン(M字やO字)を描いているならAGAです。
逆に、境界が曖昧で、全体的にぼんやりと薄くなっているなら休止期脱毛症の疑いが強くなります。
もちろん、これらが混在しているケースもあるため決めつけは禁物ですが、部位による違いは大きなヒントを与えてくれます。
セルフチェックで確認すべき自覚症状
専門医を受診する前に、まずは自分でチェックできる項目を整理しておきましょう。
日々の感覚や身体からのサインは、重要な情報源です。抜け毛以外に注目すべき自覚症状や、確認しておくべきポイントをまとめました。これらをメモしておくと、医師への相談もスムーズになります。
急激な抜け毛の増加を感じるタイミング
いつから抜け毛が増えたか、その時期を特定することは原因究明に役立ちます。「ある日突然、ごっそりと抜けるようになった」と感じる場合は、記憶を辿ってみてください。
その2〜3ヶ月前に高熱を出したり、大きなストレスがかかる出来事があったりしなかったでしょうか。休止期脱毛症は原因と結果にタイムラグがあります。
一方、「いつの間にか薄くなっていた」「数年前の写真と比べると明らかに違う」というように、開始時期がはっきりしない場合はAGAの進行パターンに合致します。
頭皮のコンディションと随伴症状
頭皮の状態もチェックしましょう。フケが多い、赤みがある、痒みが強い、あるいは乾燥しているといった症状はありませんか?これらは他の脱毛症のサインである可能性があります。
また、休止期脱毛症の原因が全身性の疾患にある場合、倦怠感や体重の増減、皮膚の乾燥など、髪以外の不調を伴うことがあります。
AGA単独では、頭皮の痒みや痛みはあまり伴いません。もし激しい炎症や円形の脱毛斑が見られる場合は、皮膚科での治療が必要な別の疾患かもしれません。
セルフチェックの重点項目リスト
- 過去3ヶ月以内に高熱、手術、過度なダイエット、強いストレスを経験したか
- 抜け毛の毛根は白く膨らんでいるか、それとも黒く萎縮しているか
- 薄毛は全体的に進んでいるか、生え際や頭頂部が中心か
- 母方の家系に薄毛の人はいるか
- 爪が脆い、疲れやすいなど、髪以外の体調変化はないか
- 頭皮に強い痒みや大量のフケが発生していないか
家系内の薄毛傾向を確認する
AGAのリスクを測る上で、遺伝情報の確認は欠かせません。ご両親、特に母方の祖父や曽祖父に薄毛の方がいらっしゃるでしょうか。
AGA関連の遺伝子はX染色体を介して遺伝するため、母方の家系からの影響を強く受けると言われています。
親族に薄毛の人が多い場合は、ご自身もその体質を受け継いでいる可能性が高いと考えるのが自然です。ご自身のルーツを確認することは、将来のリスク予測にも繋がります。
専門家による診断方法と検査のアプローチ
セルフチェックである程度の予測はつきますが、確定診断には専門的な検査が必要です。
専門のクリニックでは、どのような方法で休止期脱毛症とAGAを見極めているのでしょうか。医療機関で行われる主な検査内容とその目的について解説します。
マイクロスコープを用いた頭皮観察
初診時に多くのクリニックで行われるのが、マイクロスコープを使った頭皮と毛髪の拡大観察です。
これにより、肉眼では見えない毛穴の状態、髪の太さのばらつき、毛の本数などを詳細に確認します。AGAの場合、一つの毛穴から生えている髪の本数が減っていたり、極端に細い軟毛が多く見られたりします。
休止期脱毛症の場合は、毛の太さは比較的保たれているものの、全体の密度が低下している様子などを確認することで診断の助けとします。
血液検査でわかるホルモン値と栄養状態
血液検査も重要な診断ツールです。AGAの原因となる男性ホルモンの値や、休止期脱毛症の原因となり得る栄養不足をスクリーニングします。
特に女性や、原因がはっきりしない急激な脱毛の場合、隠れた病気が背景にないかを確認するために血液検査は必須と言えます。
また、AGA治療薬を服用する場合、肝機能や腎機能に問題がないかを事前に確認する意味でも行われます。髪の問題は体の内部の鏡でもあるのです。
クリニックで行われる主な検査一覧
| 検査名 | 主な確認内容・目的 | 分かること |
|---|---|---|
| マイクロスコープ診断 | 頭皮の色、毛穴の状態、髪の太さ、密度 | 軟毛化の有無、頭皮トラブル、進行度合い |
| 血液検査 | 一般生化学、ホルモン値、栄養素 | 栄養不足、甲状腺機能、全身疾患の除外 |
| 遺伝子検査 | アンドロゲン受容体の感受性 | AGAの発症リスク、治療薬(フィナステリド等)の効果予測 |
| 問診・視診 | 生活習慣、家族歴、既往歴、抜け毛の経過 | ストレス要因の特定、遺伝的背景の確認 |
正確な診断を受けることの重要性
自己判断で市販の育毛剤を使い続けることは、時にリスクを伴います。もしAGAであるにもかかわらず、シャンプーだけで対策をしていれば、その間にも薄毛は進行してしまいます。
逆に、一時的な休止期脱毛症なのに高価なAGA治療を契約してしまうのは、経済的な損失です。
専門医による診断は、これら「ミスマッチな対策」を防ぐためのものです。早期に正しい診断を受けることは、最短ルートで改善を目指すための最も賢い投資と言えるでしょう。
改善に向けた対策の方向性と心構え
違いと原因が明確になったところで、最後にそれぞれの対策の方向性と、治療に向き合う心構えについてお伝えします。
魔法のような即効性を求めるのではなく、ご自身の体と向き合い、着実に対策を積み重ねることが何より大切です。未来の髪を守るために、今できることから始めましょう。
生活習慣の見直しによる自然回復の可能性
休止期脱毛症、特にストレスや生活習慣の乱れが原因である場合、基本的な対策は「原因の除去」と「生活の適正化」に尽きます。
しっかりと睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけ、ストレスを適切に解消すること。これこそが髪の成長力を取り戻すための土台となります。
体が健康な状態に戻れば、休止期にあった毛根は再び活動を開始し、数ヶ月から半年程度で元のボリュームを取り戻すことが期待できます。
焦って色々な製品に手を出すよりも、まずはご自身の生活リズムを整え、体に休息と栄養を与えることが最優先事項です。
医学的なアプローチが必要なケース
一方で、AGAと診断された場合は、生活改善だけでは進行を止めることは困難です。医学的根拠に基づいた治療薬の使用を検討する必要があります。
これらは原因物質であるDHTの生成を抑制したり、血流を改善して発毛を促したりするものです。
AGAは進行性であるため、放置すればするほど回復へのハードルは上がります。「まだ大丈夫」と思っているうちに、毛根が消失してしまえば、髪を生やすことは非常に難しくなります。
AGA対策においては、科学の力を借りることに躊躇せず、医師と相談しながら適切な治療計画を立てることが重要です。
対策アプローチの比較まとめ
| 項目 | 休止期脱毛症への対策 | AGAへの対策 |
|---|---|---|
| 基本方針 | 原因の特定と除去、生活習慣の改善 | 医学的な治療(投薬など)による進行抑制と発毛促進 |
| 生活習慣 | 睡眠、食事、ストレスケアが回復の鍵 | 治療の補助として重要だが、それだけでは不十分 |
| 期待できる経過 | 原因解消後、数ヶ月で自然回復することが多い | 治療継続により進行停止や毛量の改善が見込める |
| 推奨される行動 | 内科的疾患の有無を確認し、体を休める | 専門クリニックを受診し、早期に治療を開始する |
早期発見と対策開始のメリット
休止期脱毛症であれAGAであれ、共通して言えるのは「早期対応」の重要性です。異変に早く気づき、正しい原因を特定できれば、それだけ打てる手も多くなります。
逆に、誤った自己判断で放置したり、見当違いのケアを続けたりすることは、貴重な時間を失うことになります。
薄毛の悩みはデリケートで、相談することを躊躇しがちですが、一人で抱え込まずに専門家の知見を頼ることをお勧めします。
Q&A
- ストレスで抜けた髪は元に戻りますか?
-
はい、多くの場合戻ります。ストレスが原因の休止期脱毛症であれば、ストレス要因が解消され、身体のコンディションが整えば、ヘアサイクルは正常に戻ります。
ただし、抜けた直後にすぐ生えてくるわけではなく、毛根が準備を整えるまでに数ヶ月の時間が必要です。焦らずに体調管理を続けることが大切です。
- 自分でAGAかどうか判断する方法はありますか?
-
完全な判断は難しいですが、生え際の後退や頭頂部の薄毛といった進行パターン、抜け毛の毛根が細く弱々しいことなどが判断材料になります。
しかし、確実に見分けるためには、専門医によるマイクロスコープ診断などを受けることを強くお勧めします。
- 休止期脱毛症とAGAは併発しますか?
-
はい、併発することは十分にあり得ます。もともとAGAの素因がある方が、強いストレスや生活環境の変化によって休止期脱毛症を発症するケースは見られます。
急激に薄毛が進行するこの場合、両方の側面からのアプローチが必要になります。
- 20代でも休止期脱毛症になりますか?
-
はい、年齢に関係なく発症します。就職や環境の変化、過度なダイエット、不規則な生活などが引き金となり、若い方でも珍しくありません。
若さにかまけず、規則正しい生活を送ることが予防につながります。
- シャンプーを変えれば抜け毛は減りますか?
-
シャンプーの変更だけで根本的な解決になることは稀です。頭皮に合わないシャンプーが炎症を引き起こしている場合は改善が見込めます。
しかし、AGAや内部要因による休止期脱毛症の場合、シャンプーを変えるだけでは抜け毛を止めることはできません。あくまで補助的なものと考えてください。
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